【寄稿】新時代の洋上風力発電におけるプロジェクトファイナンスレンダーとしての留意点

2021.10.26 ナレッジ

ナレッジパートナー:小谷 慎也

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


1.日本における洋上風力発電事業と「事業リスク」

 日本における洋上風力発電事業については、2019年4月1日に一般海域に係る再エネ海域利用法が施行されたことにより、長期占用を行うための統一的ルールが整備され、現在各地で一般海域における洋上風力発電の計画が着々と進んでいる。同法に基づく公募の1号案件として進められてきた長崎県五島市沖の一般海域については、2021年6月11日に、(仮)ごとう市沖洋上風力発電合同会社が事業者として選定され(https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210611004/20210611004.html)、これに続いて秋田3区域、千葉県銚子沖の公募が2021年5月27日に締め切られ、現在事業者を選定中である。また、将来的に促進区域となり得ることが期待される有望区域として整理されていた「秋田県八峰町及び能代市沖」において、2021年9月13日に再エネ海域利用法に基づき促進区域指定がなされ、現在公募占用指針(案)がパブリックコメントに付されている(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155211103&Mode=0)。今後も一般海域の海域占用を前提とする事業が中心となって洋上風力発電事業の導入が見込まれるところである。

 上記の再エネ海域利用法に基づく一般海域の占用を前提とする洋上風力発電事業は、案件規模が比較的大きく、事業費が高額となるため、一般的にはエクイティによる資金では洋上風力発電事業全体の資金をカバーすることが困難になると考えられ、プロジェクトファイナンス等による金融機関からの借入を活用するケースが多くなると予想される。
 一方で、資金の太宗を提供することになるプロジェクトファイナンスレンダーが、洋上風力に係る各種事業リスクに精通していない、又は、取れないリスクが多く内包されているとすれば、彼らはリスクテイクの対価を貸出先に求めるリターンに反映させる必要があり、最悪の場合、資金の提供を断念せざるを得ないケースも起こりうることになる。このような場合には、結果として事業者側のファイナンスコストが増加することとなる。
 そのため、当該洋上風力発電事業におけるファイナンスコスト低減のためには、レンダー側は洋上風力発電事業の「事業リスク」に精通していることが不可避であり、また、事業者側は「事業リスク」を低減し、かつレンダーと当該「事業リスク」について十分に協議することが重要である。

 一方で、プロジェクト関係者間においては、「あるリスクに最も精通している者が、そのリスクを負担すべき」という「リスク分担の原則」がある。各事業リスクは、当該事業リスクに最も精通する者が当該リスクを負担することによって、適切に事業リスクのマネジメントが可能となる。仮に事業リスクを適切にマネジメントできないプロジェクト関係者が当該事業リスクをコントロールしなければならないとすると、当該プロジェクト関係者はそれを契約価格に反映させなければならないこととなり、結果としてプロジェクトコストが増加することとなる。よって、各リスクを負担する関係者によって、当該事業リスクが適切にコントロールされれば、全体としての事業リスクが軽減され、かつプロジェクトコストの低減も達成することができる。プロジェクトファイナンスレンダーとしても、プロジェクトコストの一端となるファイナンスコストを低減するためにも、事業リスクの理解が重要である。
 本稿では、本分野で日本より先行する欧州プロジェクトファイナンスの事例も参考にしつつ、他の再生可能エネルギー事業にはない洋上風力発電事業特有のリスクを取り上げ、日本における留意点とその対応策について考察する。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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