【寄稿】新時代の洋上風力発電におけるプロジェクトファイナンスレンダーとしての留意点

2021.10.26 ナレッジ

ナレッジパートナー:小谷 慎也

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


5.デフォルトリスク

 プロジェクトファイナンスは、プロジェクトのキャッシュフローをベースとするファイナンスであり、プロジェクトファイナンスレンダーのステップインの権利を実現するために、全資産担保が前提となる。仮にプロジェクトがデフォルト状態に陥った場合には、レンダーはプロジェクトにステップインする形で、スポンサーとの間で協議をし、日本のプロジェクトにおいてはスポンサーサポート契約に基づいてスポンサーに対して対応を求める等を行い、それでもプロジェクトが立ち行かず、キャッシュフローが改善しない場合には、レンダーとしては、ステップインの最終手段としてスポンサーの変更を求めていく等の対応が考えられる。
 但し、公募手続を前提としている日本の洋上風力発電事業においては、事業SPCの構成員の変更に関して一定の規制がある点に留意が必要である。つまり事業SPCの構成員の変更については、公募占用計画の変更認定が必要となるが、当該変更認定は、公募占用計画の変更認定基準に沿って行うことが必要となる。現在の公募占用指針に基づく場合、例えば、当該事業SPCの構成員の元々の持分割合が大きければ大きいほど、変更認定が難しくなると考えられる。その意味において、プロジェクトがデフォルトに陥った場合、プロジェクトファイナンスレンダーとして全資産担保を実現したとしても、ステップインが実現できるかどうかについては不確実な状況となることについては留意が必要となる。

6.結び

 上記の通り、洋上風力発電事業については、洋上における作業の発生及び比較的大規模な事業となるという特殊性があり、事業リスクとして事業者及びプロジェクトファイナンスレンダーは十分事前に検討及び理解しておく必要がある。この点に関連して、気象条件やインフラ等が異なる日本の洋上風力発電事業の事例にそのまま適用できるわけではないが、日本より先行して洋上風力発電事業の導入が進んでいる欧州における洋上風力発電事業の事例に参考となるものが多いと思われる。日本における洋上風力市場を今後大きな市場に発展させるためには、後発組としてのメリットを最大限生かして、欧州の先行事例を参考にしつつ、関係者が日本特有の洋上風力発電の事業リスクに柔軟な発想で対処していくことが重要であると筆者らは考えている。

(以上)

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