【コラム】(プロファイバンカーの視座)第1回 長期契約と相手方の履行能力

2018.04.12 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


 シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐるトラブルには教訓が沢山含まれている。報道によれば、「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルは次のようだ。

 運営会社は、オーナー候補者に土地を販売。シェアハウスの設計や建築も請け負う。そして、シェアハウス完成後は一括借り上げ、長期(30年)に亘り賃料支払いをオーナーに保証する。土地の購入代金と建築代金は銀行が融資する。必要な資金を全額融資するので、オーナーは自己資金が不要。運営会社によって保証された一括借り上げの賃料水準は高く、オーナーは高利回りを得られ、借入金を返済してもなお余剰金が手元に残る。

 現実にはどうなったのか。シェアハウスの入居率は平均5割程度で、運営会社は保証した賃料をオーナーに支払うことができなくなり、行き詰った。運営会社は破綻に瀕している。投資しているオーナーの大半はサラリーマンで、約9割が銀行から1億円前後の借入をしている。オーナーは累計700人余にも及び、借入金の総額は1,000億円近いのではないかといわれている。オーナーは運営会社から賃料支払いが十分に行われていないので、自腹を切って借入金の返済を続けている人もいる。借入金の返済ができなくなると、いずれ破産しかねない。オーナーの中には有力な銀行が融資をするというので信頼感を寄せた者もあったという。

 運営会社は、土地の販売金額を相場よりも高く設定していた。また、シェアハウスの設計や建築でも大きく手数料を取っていた。シェアハウスの案件が成約する毎に、土地代金の差益と設計・建築の手数料が得られ、運営会社が大きく利益を上げるビジネスモデルである。

 銀行は土地や建物の実勢価格に比べ、過剰に融資していたはずである。銀行の融資姿勢にも問題があった。日本の80年代後半の不動産バブルや米国のサブプライム問題を彷彿とさせられる。オーナーが破産すれば、銀行は融資の担保となっている土地・建物を競売にかける。しかし、競売代金は融資残高を大きく下回るはずである。その差額は銀行の損失となる。

 オーナーの立場から見て、この事案はどういうところに問題があったのであろうか。まず、高利回りの投資の話しは疑ってみる必要がある。経済学では「道端に財布は落ちていない」という。お金儲けのうまい話がそうそうころがっているはずがない、という意味である。道端に財布が落ちていることは稀にあり得るが、落ちていれば誰かが真っ先に拾う。なぜ誰かに拾われずにまだ落ちているのか。そうやって、疑ってみる必要がある。

 次に、長期に亘る賃料保証である。オーナーのほとんどがこれに魅せられたはずである。長期に亘って賃料の支払いを保証してくれるのなら安心だと思ったに違いない。プロジェクトファイナンスを組成する際にも、長期販売(オフテイク)契約は重要である。この長期販売契約の存在が事業の経済性を決める。それによって、プロジェクトファイナンスも組成し得る。しかし、この際に留意しなければならないのは、契約の内容だけではない。契約の相手方が契約内容を履行できるだけの能力(履行能力)を備えているのかという点も見逃すことができない。つまり、契約の内容が優れていることと契約の相手方の履行能力との両方を見てゆかないと片手落ちである。

 本事案に戻って、この点を検証すると、長期に亘る賃料保証という契約内容は申し分ない。オーナーの多くの人が評価した通りである。しかし、運営会社にはこれを履行する能力があったと言えるのか。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Stig Ottesen on Unsplash

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