【コラム】(プロファイバンカーの視座)第2回 契約内容と相手方のトレードオフ

2018.04.26 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


 前回シェアハウス「かぼちゃの馬車」の話題を採り上げた。その際、長期に亘る家賃保証という契約内容は申し分ないが、果たしてこれを保証した運営会社は長期に亘って本当に履行することができるのかと論じた。契約内容と契約の相手方の履行能力とは、どちらも重要で、両者に留意しなければならないという論旨である。

 さて、契約内容と契約の相手方の履行能力はどちらも重要であるが、現実はなかなか難しい。どちらか一方が良くても、他方が芳しくないということはしばしば起こる。契約内容と契約の相手方の履行能力との間にもしばしば起こる。「かぼちゃの馬車」の事案では、契約内容は良かったが、相手方の履行能力は芳しくなかった。これは契約内容と契約の相手方の履行能力との間のトレードオフの問題である。

 契約内容と契約の相手方の履行能力との間のトレードオフの問題とは具体的にどういうことか。そもそもトレードオフとは、一方が成り立つと他方が成り立たない、という二律背反の関係を指している。一方を良化すると他方が劣化する、という関係でもある。両方とも良くするのは難しいという意味である。「かぼちゃの馬車」の事案でも、長期に亘る家賃保証という契約内容とこれを保証していた運営会社の履行能力との間にはトレードオフの関係が存在していた。視点を少しずらして観ると、運営会社は新興の会社で元来信用力も知名度も十分ではなかったので、せめて長期家賃保証という点をセールスポイントにせざるを得なかったとも解釈できる。

 このトレードオフの問題は実はプロジェクトファイナンスの案件でもよく見られる。例えば石油製油所の事業の場合が挙げられる。石油製油所の事業では原料として原油を長期で確保したい。そのために原油供給元と長期供給契約を締結する。その際、オイルメジャーが供給元であれば、供給義務の履行には全く懸念ないが、価格面では割高になる可能性がある。他方、中小の石油会社が供給元であれば、価格が割高になる心配はないとしても、長期に亘って供給義務を履行してもらえるかどうか懸念なしとしない。

 もう一つの例を挙げる。新興国における石炭火力発電所の事業(気候変動の観点から石炭火力発電所の新設は歓迎されていないが)の場合である。東南アジアの一部の国では自国で石炭が産出される。地元の石炭生産者に長期の供給契約をもちかければ、かなり有利な価格条件で契約を取れるかもしれない。地元石炭生産者にとっては大口で長期の購入者は優良顧客である。しかし、この石炭生産者が長期に亘って供給義務を履行できるかどうか問題はないとはならないであろう。

 以上のような事例では契約内容の良し悪しと相手方の履行能力が明らかにトレードオフの関係になっている。契約内容と相手方の履行能力との間にはトレードオフの関係があるということを与件として、ビジネスもファイナンスも考えてゆかないといけない。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Dan Freeman on Unsplash

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