【コラム】(プロファイバンカーの視座)第29回 PF組成しやすい事業(15)「資源型」と「電力型」の比較

2019.06.16 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


「プロジェクトファイナンスを組成するためにはベースケースのキャッシュフローモデルでDSCR(Debt Service Coverage Ratio)はどのくらい必要ですか」という質問を受けることがある。この質問は事業主(借主)の方からも、レンダーとなる金融機関の方からも受ける。プロジェクトファイナンスを成功裏に組成するためには、確かにベースケースのキャッシュフローモデルである程度の水準のDSCRが必要である。この水準は関係者の長年の経験から一定の水準に収斂している。そういう点で、冒頭の質問は非常に重要な質問である。

もっとも、ベースケースのDSCR水準というのは、事業主(借主)とレンダーとの間で利益が相反する問題ではある。どうしてかというと、DSCR水準は高ければ高いほどレンダーにとっては喜ばしいが(融資の返済確実性が高まるので)、借主にとっては喜ばしくはない。なぜなら、借主にとってはDSCR水準が上昇すると(借入期間が不変だとすると)借入金額の減額を余儀なくされるからである。借入金額が減額されると、その分出資金を増加せざるを得ない。借入金額が減額されて出資金が増加するということは、(事業の収益性が不変だとすると)出資金に対する収益率が低下する。いわゆるIRR(Internal Rate of Return/内部収益率)が下がる。つまり、ベースケースのDSCR水準は、レンダーは高い方が喜ばしいが、借主は低い方が喜ばしい。そうは言っても、どこかの水準で両者が合意しなければプロジェクトファイナンスが成立しない。こういう微妙な均衡の上に、ベースケースのDSCR水準は成り立っている。

さて、ベースケースに必要なDSCRの水準とは一体どのくらいの水準なのであろうか。このベースケースのDSCR水準を考えるときに重要な視点が、実は「資源型」事業と「電力型」事業の分類である。ベースケースのDSCR水準は、「資源型」事業と「電力型」事業とでは大きく異なる。ベースケースのDSCR水準は「資源型」事業では1.80から2.00程度が標準である。2.00を超えるものもある。一方、「電力型」事業では1.30から1.50程度が標準である。

従って、冒頭の質問は当該事業が「資源型」なのか「電力型」なのかによって回答が異なるということになる。また、当該事業は「資源型」なのか「電力型」なのかが分かりさえすれば答えは自ずと出て来る、とも言える。

どうしてベースケースのDSCR水準は、「資源型」事業と「電力型」事業とで、こんなに違ってくるのだろうか。この違いの由来に注目するのも重要である。これはもっぱら両事業の収入の安定性の違いから来るものである。「資源型」事業では生産物(例えば石油・ガス)の価格が市場で常時変動している。従って、どうしても事業収入は大きく変動する。この生産物価格の変動すなわち事業収入の変動に備えるためには、キャッシュフローに十分な余裕を持たせたい。キャッシュフローに十分な余裕を持たせるためには、DSCRの水準は2.00くらい必要になるということである。

一方、「電力型」事業は長期オフテイク契約(例えば電力売買契約)が存在するため、事業収入が安定している。事業収入の安定は「電力型」事業の特長である。事業収入が安定しているので、ベースケースのDSCR水準は「資源型」事業ほど高くする必要がない。「電力型」事業のベースケースのDSCR水準が1.30から1.50程度の水準に収斂しているのは、「電力型」事業の収入が安定しているからである。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Tom Ritson on Unsplash 

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