【寄稿】非化石価値取引 トラッキングの課題と見直しについて

2023.12.20 ナレッジ

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


(出典:資源エネルギー庁 2023年9月11日「非化石価値取引について」P16)

3. トラッキング制度見直しの具体的な内容

このような現状を踏まえ、資源エネルギー庁は、以下のような現行のトラッキングの見直しを検討しています。

(1)トラッキングの対象の変更
(2)現行のFIT証書に関する優先割当ての取扱いの変更
(3)入札方法及び約定ルールの変更

(1)トラッキングの対象の変更

トラッキングを付与する対象となる非化石証書については、以下のような見直しを行う方向で検討を深めることとしてはどうか、という提案がなされています。

  • 再エネ指定のない非FIT証書についても、トラッキング対象とする(※6)
  • 非FIT証書について全量トラッキングを行う(※7)

また、買い手が入札時点で属性情報の希望を出す一助とするため、過去の非FIT証書の売り入札の属性情報を開示するという見直しも提案されています。

(※6)
現状、再エネ指定のない非FIT証書はトラッキングの対象外とされています。これは、現行の仕組みの中でこれまでこれらの非FIT証書について、小売電気事業者からトラッキングの希望がなかったことによる、とされています。

(※7)
現在は、事前に発電事業者がトラッキングを希望しない限りトラッキング情報が付与されないこととされています。

(2)現行のFIT証書に関する優先割当ての取扱いの変更

現行の制度では、FIT証書に関して、以下の3つの優先割当ての仕組みが存在するため、資源エネルギー庁の資料によれば、FITトラッキング割当可能量の半数余りを小売買取分が占めるほか、再エネ特定卸供給契約分が全体の約1割を占め、希望する小売電気事業者への任意の割当可能量は売り入札全体の約3分の1にとどまっているとされています(※8)。そこで、市場取引分のトラッキング情報の割当可能量をできる限り増やす必要があると考えられており、これらの現行の優先割当ての仕組みが論点となっております。

① 再エネ特定卸供給
FIT電源の電気を固定価格買取制度に基づき一般送配電事業者が発電事業者から買い取った上で、契約に基づき特定の小売電気事業者に供給する制度です。現行制度では、再エネ特定卸供給の対象となるFIT電源のトラッキング情報は、当該特定卸供給者に対してのみ付与されることとなっています。
② 小売買取
小売買取とは、FIT制度改正により全量送配電買取となる以前に、小売電気事業者が固定価格買取制度に基づきFIT電源の電気を義務的に買い取っていたものが継続している場合をいいます。現行制度では、小売買取の対象となっているFIT電源のトラッキング情報は、当該小売買取義務者に対してのみ付与されることとなっています。
③ 個別合意
オークション前に小売電気事業者又は需要家が発電事業者と個別に合意形成した場合で、この場合、現行制度では当該小売電気事業者又は需要家は特定設備の属性情報を優先的に得ることができることになっています。

(出典:資源エネルギー庁 2023年11月29日「非化石価値取引について」P3)

トラッキングの見直しに伴い、これらの現行の優先割当ての仕組みを維持するか否かは、特に現在これらの仕組みを利用して取引を行っている発電事業者、小売電気事業者や需要家に大きな影響を与える可能性があります。そのため、資源エネルギー庁は関係事業者にヒアリングやアンケートを実施し、その内容(※9)も加味した上で、以下のような方向で検討を進めることを提案しています。

① 再エネ特定卸供給の見直しの方向性
優先割当を当面、継続する。
これは、再エネ特定卸供給の締結によりトラッキング情報も取得できると期待することに一定程度合理性があり、活用している事業者が多いことから廃止による影響が大きいことを考慮したものとされています。
② 小売買取の見直しの方向性
基本的には廃止するが、一定の条件を満たすものに対してのみ経過措置を認めることとし、詳細は今後検討する。
これは、小売買取により小売電気事業者がトラッキング情報を取得できると期待することには一定程度合理性はあり、優先割当を前提に契約を締結している事業者への影響を配慮する必要はあるものの、既にFIT制度は送配電買取に移行しており、小売買取は順次終了する見込みであることなどを考慮したものとされています。
③ 個別合意の見直しの方向性
基本的に廃止するが、一定の条件を満たすものに対してのみ、経過措置を認める。
これは、個別合意の場合にはFIT電気に関するPPA契約は存在せず電気の属性情報とトラッキング情報を一致させることもできないためこの不一致による混乱を防ぐ必要性は小さいこと、一方で個別合意の仕組みを前提に小売契約やサービス提供を約束している事業者も相当程度いることから予見可能性に配慮する必要はあることなどを考慮したものとされています。

この優先割当の取扱いに関しては、今後の①の方向性、並びに②及び③に関する経過措置の内容によって、市場取引分のトラッキング情報の割当可能量及び現行の制度を前提に取引を行っている事業者への影響が定まってくると思われますので、今後の改正の内容を注視する必要があると思われます。

(※8)
第84回 本作業部会 資料3-2 P12 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/084.html
(※9)
ヒアリングとアンケートの結果は、第86回 本作業部会 資料4をご参照下さい。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/086.html

(3)入札方法及び約定ルールの変更

非化石証書の入札方法及び約定ルールの点については、非化石電源の属性情報ができる限り証書価格に反映されるよう、小売電気事業者等の非化石証書の購入者がトラッキング情報の希望を入札時に示すことが求められる見直しが検討されております。当該見直しに伴い、①入札方法及び約定ルールについて、どのような粒度(電源種、発電所の所在地、運転開始後の年数等)で小売電気事業者等の非化石証書の購入者が希望を出せるようにするか、②希望に応じた証書の供給量が不足する場合、どのような約定ルールとするか、といった点について検討が必要であるとされています。

これらの事項についても、資源エネルギー庁は関係事業者にヒアリングやアンケートを実施し、その内容も加味した上で、入札方法及び約定ルールについては、電源種(及びRE100対応)を選択の上、特定設備又は都道府県を選択する方法を基本としつつ、実務レベルで検討を深めるとしています。
また、現行想定として、以下のような提案がなされています。

  • 買い手は入札時に価格、数量、希望するトラッキング属性を提示する。
  • トラッキング属性は第2希望まで指定できる。
  • トラッキング属性の希望の出し方は、A.特定設備のトラッキング情報を指定する方法とB.一定条件(例:所在地や発電種別)を満たす設備のトラッキング情報を指定する方法を想定する。
  • トラッキング属性の希望を提示しないことも可能で、その場合ランダムに任意のトラッキング情報が付与される。
  • 同一のトラッキング属性について複数の買い入札が発生した場合、入札価格の高い順に希望量を割り当てる。

次ページ その他の論点ー発電事業者と需要家間の非FIT再エネ証書の直接取引など

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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