【寄稿】非化石価値取引 トラッキングの課題と見直しについて

2023.12.20 ナレッジ

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


TMI総合法律事務所
パートナー弁護士 越元 瑞樹
     弁護士 松下 茜

非化石価値のトラッキングとは、非化石証書に対して、発電所の電源種、発電所の所在地等の属性情報を付与する仕組みのことをいいます。当該トラッキングの制度の見直しについて、資源エネルギー庁が検討を行い(※1)、年内を目途に見直しの具体策をまとめる方針が今般示されています。

2050年のカーボンニュートラルに向けた環境意識の高まりとともに、RE100などの取組に賛同する企業も増加し、電気の非化石価値を証書化した非化石証書の取引を行っている企業も増加しています。そのような企業にとって今回の見直しは大きな影響を与える可能性があるものとなっています(※2)
現時点で見直しの詳細や時期について、明らかになっていないところもありますが、今回は、現在本作業部会でされている議論の方向性について整理しました(※3)

(※1)
これまで、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会(以下「本作業部会」といいます。)の第84回(2023年9月11日開催)と第86回(同年11月29日開催)において具体的な議論がされております。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/index.html
(※2)
RE100への報告のためには、電源種を特定することが求められますが、トラッキングに対応していない非化石証書はRE100の目的には利用できませんでした。トラッキング付の非化石証書とされることで、RE100に参加する企業が非化石証書をRE100の報告に利用することができる可能性が出てくることとなります。
(※3)
見直しの方向については現在本作業部会で検討中であり、以下で紹介する内容は確定したものではないため、今後変更される可能性もあることにご留意下さい。

1.  非化石価値取引市場とトラッキングの現状

非化石価値取引市場は、もともと、2016年のエネルギー供給構造高度化法(高度化法)における非化石電源比率目標の見直しを受けて、小売電気事業者による高度化法の義務履行を後押しする仕組みとして導入されました。取引市場を運営しているのは日本卸電力取引所(JEPX)ですが、現在非化石価値取引市場は、再エネ価値を取引する再エネ価値取引市場と、高度化法義務の達成に向けた取引が行われる高度化法義務達成市場の二つに分かれています。

(出典:資源エネルギー庁 2023年9月11日「非化石価値取引について」P2)

再エネ価値取引市場は、RE100等の再エネ電気への需要家ニーズの高まりに対応するため、①需要家の直接購入を可能とし、②価格を引き下げることでグローバルに通用する形で取引できる市場として、2021年11月に創設されました。
ここで取引される非化石証書は「FIT電源」が対象であり、小売電気事業者のほか需要家も購入が可能です。また、2021年度から全量トラッキングがされています。

高度化法義務達成市場は、取引の対象を「非FIT電源」とし、原則として小売電気事業者が購入可能とされていますが、2022年からは、バーチャルPPAの取組をする一部の電源に限り、需要家が発電事業者から非FIT証書を直接購入することが可能となっています。こちらは、2022年2月よりトラッキングが開始されています。

非化石価値取引市場は、上記のとおり、もともと、小売電気事業者による高度化法の義務履行を後押しする仕組みとして導入され、そこでは電源の性質によらず非化石の価値は等しいものとの理解に基づき、トラッキングは付与されていませんでした。
しかし、その後、国際的な環境意識の高まりなどを背景に、需要家による再エネ価値の訴求手段としてのニーズが増大し、需要家からは、トラッキング情報を証書に付すことを求める声が高まっています。このため、FIT証書については2021年の再エネ価値取引市場の創設にあわせて全量トラッキング化がされ、非FIT証書についても順次トラッキング化が進められています(※4)

(※4)
非化石証書のトラッキング情報の付与は、BIPROGY株式会社によって行われており、非化石証書のトラッキング付与に関する詳細情報は以下の同社のウェブサイトに示されております。
https://www.biprogy.com/solution/other/fit_tracking.html

2. 現行制度におけるトラッキングの課題

現行の市場取引分のトラッキングは、非化石目標等を定める高度化法の下で、電源の性質によらず非化石の価値が等しいことを踏まえ、非化石証書の購入者に対し、希望する非化石電源の属性情報(電源種及び所在地等)を約定後に無償で付与する方式がとられています。
その結果、約定価格には、非化石電源の属性に応じた非化石価値の差異は反映されず、また、特定の属性情報を有するFIT証書について、購入者の希望量に対して割当可能量が不足することが生じる(※5)などの問題点が指摘されています。

(※5)
資源エネルギー庁の資料によれば、例えば、福岡(太陽光)のトラッキング情報について、割当希望量(需要)が割当可能量(供給)を上回ることにより希望量の割当ができない状況が発生しているとされています(第84回 本作業部会 資料3-2 P12を参照)。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/084.html

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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