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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第4回

2017.04.17 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


4.まとめ

 「はじめに」で、電力・水事業向けのプロジェクトファイナンスは数多く成立しているが、交通インフラ事業向けのプロジェクトファイナンスは成立している例が少ないと指摘した。
 そして、それはどうしてであろうかと問題提議をした。本稿で採り上げた交通インフラ事業の4つの特性は電力・水事業ではほとんど見られないという点を確認しておきたい。

 電力・水事業向けのプロジェクトファイナンスが成立している事例では、「外部経済性の存在」「需要リスク」「土木工事が多い」などの諸点はほとんど問題とならない。例えば、電力事業では売電契約で電力料金の水準があらかじめ合意される。電力料金はCapacity ChargeおよびEnergy Chargeという2つの要素から成り立っている。前者は資本回収を可能とする水準で決まり、後者は燃料費をカバーする。これらはいわばアヴェイラビリティ・ペイメント方式と同じような効果がある。もっとも、マーチャントと言われる売電契約のない電力事業の場合には事情は異なるが、ここでは売電契約の存在する標準的な電力事業を前提に話を進める。売電契約で電力料金があらかじめ合意されているのであれば、「外部経済性の存在」も「需要リスク」も問題ではなくなる。また、発電所の建設は通常整地された用地が確保されているので、そうであれば「土木工事」はほとんど不要となるであろう。従って、土木工事に伴う完工リスクもほとんどない。

 電力・水事業を新興国で行う場合にも「新興国での為替リスク」の問題が理論的潜在的には存在する。しかし、例えば、新興国の電力(発電)事業では同国の国営電力会社に対して電力を供給することが普通なので、国営電力会社との売電契約において電力料金を米国ドル建てで支払ってもらうよう差配することが可能である。実際新興国でプロジェクトファイナンスが成立している電力案件の売電契約ではそのように工夫されている[*12]。仮に電力料金の支払いが新興国の現地通貨で行われるような売電契約であったとすると、プロジェクトファイナンスの成立は難易度が極めて高くなる。また、先進国の電力事業者はかような売電契約を受け入れることはなく、電力料金の支払い通貨について満足のゆく解決が得られなければ彼らは事業自体を断念することを厭わない。為替リスクの問題は事業リスクとして大きすぎるという判断である。

 つまり、電力・水事業では「外部経済性の存在」「需要リスク」「土木工事が多い」などの問題が存在せず、「新興国での為替リスク」は売電契約上の規定で回避している。これらの諸点がプロジェクトファイナンスを成立可能としているのである。

 従って、交通インフラ事業向けにプロジェクトファイナンスを成立させようとすれば、アヴェイラビリティ・ペイメント方式の導入や事業主による完工保証は必須と言わざるを得ない。そのような対応策を打ってもなお、新興国では「為替リスク」の問題が残る。新興国での「為替リスク」はいまのところ抜本的な解決策が見当たらない。電力事業のようにアヴェイラビリティ・ペイメントを米国ドルで支払うようにすれば、この問題を解決できる。しかし、これは外貨調達力の弱い新興国政府には負担が重い。

 交通インフラ事業の特性のうち「外部経済性の存在」は交通インフラ事業の収益性を引き上げるポテンシャルを秘めている。日本の私鉄各社はそれを実現してきた。「新興国での為替リスク」の弱点を、「外部経済性の存在」を活用することである程度補完してゆくことは可能なのではないかと思う。

 交通インフラ事業の成功のカギは外部経済性の活用にあると筆者は考えている。

[*12] タイの電力事業(IPP事業)では、タイ国営電力会社(EGAT)が電力料金を50%米国ドル建て、50%タイ・バーツで支払う。プロジェクトファイナンス組成の際には融資のうち半分を米国ドル建て、もう半分をタイ・バーツ建てとして為替リスクの回避を行う。もっとも、タイは中進国であって新興国ではない。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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