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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第2回

2017.04.11 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 将来の需要を正確に予測するのが難しい理由を分解してゆくと、少なくとも2つの重要な要因が見出せる。1つは「時間との関係」である。もう1つは「利用料金との関係」である。

 「時間との関係」とは、需要がある程度予想されるとしても、それはどのくらいの時間軸で需要が見込めるのか、当該交通インフラ設備が完成して数年以内なのか、それとも10年あるいは20年かかるのかということである。上記の台湾新幹線の例では完工後ちょうど10年経っているが利用者は予想どおりには増えていない。アクアラインの例に至っては完工後20年経っても、予想通りに利用者は増えていない。
 もっとも、さらに10年先の将来にはもう少し利用者が増えている可能性はあるが、そうこうしているうちに事業は資金が底をつき政府や自治体の支援なしには事業自体が継続できない状態に陥る。需要は当該交通インフラ設備完成次第十分存在していることが望ましい。

 「利用料金との関係」というのは、当該交通インフラ事業の利用者から通行料金を徴収した場合に、当該事業の収入を最大化する料金水準が事前に正確に分からないという問題である。
 常識的には、通行料金が高いと利用者は減る、通行料金が低いと利用者は増える。通行料金に利用者数を掛けた積が事業収入となるので、両者の積(つまり事業収入)を最大化するような通行料金を設定したい。

 この通行料金と利用者数との関係は、経済学でいう需要曲線のことである。需要曲線は次のように図示することができる[*7]

(通行料金と利用者数との関係)

[*7] 本需要曲線は説明のために筆者が創作したもの

  上図では、縦軸が通行料金(Fare)、横軸が利用者数(Traffic Volume)を示す。そうすると、概ね右下がりの線が描ける(通行料金を引き下げると利用者数は増えるという関係なので)。上図の例では、通行料金2,000円では利用者数50万(従って、収入は10億円)であるが、通行料金を1,000円に引き下げれば利用者数は150万(従って、収入は15億円)に増える。そうすると収入を最大化するためには、通行料金を2,000円から1,000円に引き下げた方が良いということになる。

 ここで、交通インフラ事業の特徴をひとつ指摘しておきたい。交通インフラ事業は利用者数が増えたからと言って、それに比例して操業費が増加するわけではないという点である。製造業であれば、生産物を増やせば生産費が相応増えるわけであるが、交通インフラ事業はそういうことはない。もっとも、利用者が増えれば、管理者を増やさなければいけないとか設備の消耗が進み修繕費が上がるというようなことは当然発生するが、収入の増加に比べればわずかな費用増加に収まる。ということは、一旦完成した交通インフラ設備は、最大限利用者を増やすのが事業経営的には望ましい。この点は俗に「箱もの」と言われる図書館や市民ホールなどの公共施設にも共通している点である。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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