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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第5回

2017.07.27 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


3-3 日本の独自プログラムの実例

【実例1- ベトナム・ニソン石油精製プロジェクト】

 さて、本稿冒頭で事例紹介をしたベトナムの「ニソン石油精製プロジェクト」を思い出して頂きたい。この案件は世界の7つの輸出信用機関が合計50億米ドルのプロジェクトファイナンスを供与した案件である。輸入代替案件が持つ難しい側面があったが、輸出信用機関を活用してプロジェクトファイナンスの組成を成功裏に果たした案件として紹介した。ところで、本案件に対して7つの輸出信用機関はそれぞれどのようなファイナンス・プログラムを利用したのであろうか。輸出信用機関なので、すべて輸出金融のプログラムを利用したのであろうか。

 実は日本以外の5つの輸出信用機関はOECDガイドラインに基づく輸出金融を利用している。ところが、日本の輸出信用機関はそれぞれ独自のプログラムを利用している。つまり、国際協力銀行は投資金融、日本貿易保険は海外事業資金貸付保険である。

 上記図は本稿冒頭に紹介したものと同じ図であるが、輸出金融のプログラムを利用している輸出信用機関を灰色で示し、独自プログラムを利用している日本の輸出信用機関を水色で表記し直している。なぜ日本の国際協力銀行と日本貿易保険は、他国の輸出信用機関のように、輸出金融を利用せず独自プログラムを利用したのであろうか。本案件には日本のエンジニアリング会社等 [*28] がプラントの設計・調達・建設に関与するなど輸出金融を利用できる素地はあった。

[*28] 日揮、千代田化工建設、仏テクニップ、韓国のSK建設、GS建設の5社の企業連合が受注している。

 日本の国際協力銀行と日本貿易保険が輸出金融のプログラムを利用せず独自プログラムを利用したのは、それぞれ大きな融資金額あるいは保険金額を供与するためであったようである。というのは、直接融資約23億米ドルについてみると、その7割に当たる16.5億米ドルが国際協力銀行によって供与されている。また、保険・保証約27億米ドルについてみると、5割弱に当たる約13億米ドルが日本貿易保険によって供与されている。両者合わせて約30億米ドル近い。総融資額50億米ドルのうちの6割に相当する。輸出金融のプログラムではOECDガイドラインの制約があり、これだけ多額の融資や保険は供与できなかったであろうと推測される。本案件は出光興産および三井化学が出資している案件であることから、国際協力銀行の投資金融や日本貿易保険の海外事業資金貸付保険の利用が可能であり、またこれらの独自プログラムの利用により輸出金融では実現できないような大型の融資および保険を実現したものと言える。本事例に見られるように、日本の輸出信用機関は、独自のファイナンス・プログラムを駆使して日本企業の海外投資事業に強力な支援を行っている。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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