2024.04.23
【レポート】（全６回）輸出信用機関（ECA）とプロジェクトファイナンスー第５回
2017.07.27 ナレッジ ハブ
【実例２- 豪州イクシスLNGプロジェクト】[*29]
もうひとつ実例を見ておきたい。国際石油開発帝石とフランスの石油メジャー、トタール社が共同で推進する豪州でのイクシスLNGプロジェクトである。このプロジェクトは日本企業が主導する初めてのLNG(液化天然ガス)事業として注目される。総事業費340億米ドル (約3兆4千億円)と大規模な事業である。西オーストラリア州沖合に発見された海底ガス田(イクシス・ガス田)を開発・生産し、産出した天然ガスを総延長約900キロメートルのパイプラインで陸上に運び、北部準州ダーウィン市に建設する液化天然ガス製造プラントで液化する。液化された天然ガスを専用船(LNG船)で日本等の需要地に輸出する。LNGの生産量は年間840万トンが計画されている。
[*29] 国際石油開発帝石の2012.12.18付プレスリリースに拠る。
2012年暮れに200億米ドル(約2兆円)のプロジェクトファイナンスの融資契約書が調印された。総事業費340億米ドルのうち、200億米ドルをプロジェクトファイナンスによる銀行借入金で調達したものである。プロジェクトファイナンスによる借入金の規模としては最大級である。本プロジェクトの陸上LNGプラントに関わるEPC(設計・調達・建設)業務は日揮、米国KBR社および千代田化工建設が共同で受注した。受注金額は約150億米ドル [*30] である。
[*30] 日揮の2012.1.13付プレスリリース
さて、200億米ドルのプロジェクトファイナンスの組成には多くの金融機関が関わった。８つの輸出信用機関と２４行の民間銀行がファイナンスに参加している。８つの輸出信用機関とは日本の国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)の他、韓国輸出入銀行(KExim)、豪州輸出金融保険公団(EFIC)、韓国貿易保険公社 (KSure)、オランダのアトラディウス（Atradius）、ドイツのヘルメス（Hermes）、フランスのコファス（Coface）である。本プロジェクトは多くの輸出信用機関が参加したという点でも特筆に値する。
８つの輸出信用機関のうち、国際協力銀行(JBIC)、韓国輸出入銀行(KExim)、豪州輸出金融保険公団(EFIC)の３機関が直接融資を供与している。３機関の融資額の合計は58億米ドルである。そのうち国際協力銀行の融資額は50億米ドルで大半を占めている。また、日本貿易保険(NEXI)、韓国輸出入銀行(KEXIM)、韓国貿易保険公社 (KSure)、アトラディウス（Atradius）、ヘルメス（Hermes）、コファス（Coface）の６機関が保険・保証を供与している（韓国輸出入銀行は直接融資と保証の両方に参加）。保険・保険の合計額は54億米ドルである。そのうち、約半分に当たる27.5億米ドルの保険を日本貿易保険が供与している。８つの輸出信用機関による融資・保険・保証の総額は112億米ドルに及んでいる。これは総融資額200億米ドルの56%に当たり、輸出信用機関によるファイナンスの重要性を物語る。
８つの輸出信用機関はそれぞれどのようなファイナンス・プログラムを利用したのであろうか。輸出信用機関なので、OECDガイドラインに基づく輸出金融であろうか。実は日本以外の６つの輸出信用機関はOECDガイドラインに基づく輸出金融を利用しているが、日本の輸出信用機関はベトナム・ニソン石油精製プロジェクトと同様に、それぞれ独自のプログラムを利用している。つまり、国際協力銀行は投資金融(本件の場合、投資金融の資源版である資源金融)、日本貿易保険は海外事業資金貸付保険である。
上記図においても、輸出金融のプログラムを利用している輸出信用機関を灰色で示し、独自プログラムを利用している日本の輸出信用機関を水色で示している。なぜ日本の国際協力銀行と日本貿易保険は、他国の輸出信用機関のように、輸出金融のプログラムを利用せず独自プログラムを利用したのであろうか。本案件にも日本のエンジニアリング会社等がプラントの設計・調達・建設に関与するなど輸出金融を利用できる素地はあった。
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