【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第9回 インフラプロジェクトの収益性評価

2019.05.16 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 第7回および第8回のコラムでは、プロジェクトカンパニーにおける工事保険および操業保険の実務上の留意点についてとりあげた。今回はインフラプロジェクトに投資する場合の収益性をどう評価するか、という点について考察してみたい。

個人投資家の場合

 一口に「インフラプロジェクトへの投資」といっても、投資家の属性や投資対象によって、いろいろな投資の仕方がある。個人投資家であれば、以前はインフラ事業を手掛ける個別企業の社債ないし株式を購入するしかなかったが、現在ではインフラ関連企業への投資をテーマとした投資信託やETF(上場投資信託)があり、少額からインフラセクターへの投資が可能になっている。2015年には東京証券取引所(東証)でもインフラファンド市場が創設され、2019年5月現在、6銘柄が上場されている。上場インフラファンドは、上場株式や上場REIT、ETFと同様な感覚で、少額から気軽に投資することが出来る。個人投資家にとっての「収益性」は、配当(インカムゲイン)利回りに、値上がり益(キャピタルゲイン)も加味して測るのが一般的と言えるだろう。

機関投資家(デット投資)の場合

 自らのバランスシートを利用して融資を行う銀行等の機関投資家であれば、インフラ事業を行う企業に対してコーポレートファイナンスベースで貸出を行うか、個別の案件に対して、プロジェクトファイナンスベースでシニアないしメザニンレンダーとしてデットを供与するのが、一般的な取り組み方法となる。ローンではなく、プロジェクトボンド(債券)を引受・購入する場合もある。個別案件の分析を行うリソースが限定的である等の場合には、複数のインフラ案件に投融資を行う、私募のインフラファンドにリミテッドパートナーとして出資するケースもあるだろう。インフラファンドの投融資の対象は、デットの場合もあればエクイティの場合もあり、当然ながらデットとエクイティでは期待する収益性は異なってくる。なおインフラトのサイトにもインフラファンドの動向をまとめたページがあるので、興味のある方は参照されたい。

 個別のインフラプロジェクトに対して、プロジェクトファイナンスベースでレンダーとして参加する場合の収益は、金利マージンから発生する金利収益と、案件組成・ファイナンス・クローズ時のアップフロント・フィーや、毎年発生するモニタリング・フィー等の非金利収益に大別される。ファイナンス・クローズおよびアップフロント・フィーに関する解説は、それぞれ第2回および第3回のコラムを参照されたい。

 レンダーとしては、金利収益および非金利収益の絶対額に加え、信用リスクも加味した上での、リスクアセットあたりのオールインの収益性も指標になる。同じリスクプロファイルであれば、レンダーにとって金利マージンは高い方が望ましいのは言うまでもない。が、金利マージンが高い案件ということは、それだけ信用リスクも高い可能性がある。信用リスクが案件格付に影響を及ぼす程度に高くなれば、リスクアセットを計測する際のリスクウエイトも高くなるはずである。

 非常に単純化した例として、同じ1億ドルのローン債権で、マージンが1%、リスクウエイトが50%の債権Aと、マージンが2%、リスクウエイトが100%の債権B(いずれも非金利収益はなしと仮定)を想定してみよう。マージンだけみれば、債権Bは債権Aの2倍(=2%/1%)の収益性ということになるが、リスクアセットあたりの収益性では同じということになる(債権A:1%/1億ドル×50%=債権B:2%/1億ドル×100%)。

エクイティ投資の場合(事業法人、機関投資家、ファンド)

 では個別のインフラプロジェクトに対して事業法人、機関投資家ないしファンドがエクイティ投資を行う場合、その収益性は、どのようにして測るのが一般的なのであろうか?よく利用される指標に IRR(Internal Rate of Return、内部収益率、「アイアールアール」と読む)とPay Back Period(回収期間)がある。インフラトの多くの読者諸氏にとっては、わかりきったことかもしれないが、ファイナンスのバックグラウンドの無い方向けにごく簡潔に解説すると以下の通りとなる。

 「IRR(内部収益率)」とは、プロジェクトから期待される将来のフリーキャッシュフローと、投資に必要なキャッシュアウトフローの現在価値が等しくなる(=正味現在価値(Net Present Value)がゼロになる)ような割引率のことを言う。エクイティ投資家は、デットによる資金調達も勘案したEquity IRR(エクイティ アイアールアール)を指標として用いるのが一般的である。これに対して、「回収期間」はより単純な概念で、文字通り「投下した資本(投資金額)が何年で回収できるか」というものである。こうした指標を用いることによって、異なる案件を同じ指標で比較することが可能になる。

 次回のコラムでは、Equity IRRを利用する場合の実務上の留意点や限界点、そして多くの日本企業で今でもKPI(Key Performance Indicator、重要な業績評価指標)として利用されている「PL」算出のために必要となる、プロジェクトカンパニーにおける決算書作成の実務について触れてみたい。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

【バックナンバー】
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