【コラム】(プロファイバンカーの視座)第22回 PF組成しやすい事業(8)「電力型」(石油・ガス分野)

2019.02.28 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


石油・ガス分野の「電力型」事業の具体例の最後である。最後は北米LNG事業である。

(5)北米LNG事業

「LNG事業」と言わず「北米LNG事業」としている。北米という地域に限定している点にご注意いただきたい。LNG事業というと通常天然ガスの採掘・生産から液化までの一貫した事業のことを指す。例えば国際石油開発帝石が豪州で操業しているイクシスLNG事業がその例である。イクシスLNG事業では海底ガス田から天然ガスの採掘・生産を行い、産出した天然ガスを総延長約890㎞のパイプラインで陸上まで運び、陸上にある液化プラントで液化する。液化した天然ガス(つまり液化天然ガスすなわちLNG)を港からLNG船で出荷する。

これが天然ガスではなく石油の場合にはもう少し話は簡単である。石油ならば産出した石油を石油タンカーに載せて出荷すれば済む。海底油田であっても、既に採り上げたFPSO(浮体式石油生産・貯蔵・搬出設備)で生産し、FPSOに横づけした石油タンカーで出荷することができる。ところが天然ガスの場合、この出荷が容易ではない。近距離への出荷ならパイプラインで可能である。しかし、近距離に天然ガスを長期に亘り大量に買い付けてくれる購入者がいることは稀である(インドネシアのスマトラやウエスト・ナツナで生産されている天然ガスはパイプラインでシンガポールに輸出されているが、これは稀な例のひとつである)。そこで天然ガスを液化して遠方に輸出するのである。液化するのは遠方に輸出するためである。こういうLNG事業が行われるようになって、産業史上まだ半世紀ほどしか経っていない。従って、それ以前は油田の発見は大歓迎されたが、ガス田の発見は関係者を失望させることが多かった。なぜなら、当時ガス田は商業化が難しかったからである。ちなみに現在でもLNG事業を行えるほどの規模ではない中小ガス田は商業化が難しい。いまFLNG(浮体式の天然ガス生産・液化・搬出設備)といういわばFPSOのLNG版が商業化されつつあるが、これは投資資金の削減だけにとどまらず、中小ガス田の商業化にも道を拓くものである。

さて、本稿のテーマに戻る。本稿のテーマが「LNG事業」ではなく「北米LNG事業」としているのはなぜか。それは「北米LNG事業」は液化だけの事業だからである。上流の天然ガスの採掘・生産という部分がない。一般的なLNG事業の範囲は上記の通り天然ガスの採掘・生産という上流部門を含むものであるが、北米では「液化プラント」だけを建設・操業する事業が出現してきた。これを筆者は一般的なLNG事業と区別するために「北米LNG事業」と呼んでいる。「北米LNG事業」には日系企業が出資しているものもある。キャメロンLNG(三菱商事、三井物産)やフリーポートLNG事業(中部電力、大阪ガス)はその例である。

なぜ、「液化プラント」だけを建設・操業する事業が北米に出現してきたのか。それは「シェールガスの大量生産」と「北米ガスパイプライン網」のお蔭である。シェールガスはシェールオイル同様、頁岩(けつがん。これを英語でshaleという)という硬質の岩石の中に浸み込んでいる。随分前から頁岩に石油やガスが存在していることは確認されていた。しかし、商業的に採掘・生産する方法が分からなかった。それが今世紀に入ってから、水圧破砕(Hydraulic Fracturing)という工法やさらに水平掘削(Horizontal Drilling)という掘削方法で商業化が実現したのである。これを「シェール革命」と呼ぶ人もいる。

筆者は今でも鮮明に記憶しているが、2005年頃まで北米にはLNG輸入基地(輸出基地ではなく輸入基地である)の事業計画が50基以上も存在していた。北米でガスが不足するようになるから輸入しようとしたものである。ところがシェールガスの商業化が実現し、北米のガス事情は一変した。国内のガス需要を満たして余りある状況である。そして今や北米はその余りある天然ガスを液化してLNGとして輸出し始めた。北米がLNG輸出大国になるのは時間の問題だと言われている。さらに、シェールガスの大量生産に加えて、 元々存在していたガスパイプライン網がシェールガスの利用を容易にしている。北米には石油パイプラインとガスパイプラインのネットワークが整備されている。シェールガスの大量生産だけでは「北米LNG事業」は短期間に拡散しなかったはずである。整備されたガスパイプライン網の存在も大きい。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明 

*アイキャッチ Photo by Stephen Walker on Unsplash

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