【寄稿】洋上風力発電事業の今後の展望とファイナンスの検討方法

2019.04.29 ナレッジ

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


(3)プロジェクトの原状回復

再エネ海域利用法法案の付帯決議に原状回復にかかる将来の撤去費用の確保について言及され、また洋上風力発電設備の撤去に関する事項につき公募占用計画に記載しなければならないこととされている(再エネ海域利用法第14条第2項第12号)等、洋上風力発電における原状回復は重要な事前検討事項である。洋上風力発電事業のその性質から、原状回復についても相当のコストが予想されるところ、欧州では基礎の残置が実態として許容されていることから(一般社団法人日本風力発電協会「洋上風力発電の導入促進に向けて~特に洋上風力新法に係る課題と要望~」2018年3月16日P17・Department of Energy & Climate Change「Decommissioning of offshore renewable energy installations under the Energy Act 2004」2011年1月P22参照)、かかる取扱いが日本においても認められることとなるか、またどのような形での原状回復費用確保が今後要求されるのか(案件の当初から事業者が原状回復費用に応じた一定のリザーブを求められるのか等)[*7]、今後の実務の動向に注目されるところである。

[*7]
プロジェクトファイナンスの最終返済期限は、通常固定買取期間の最終日よりも早い時期に設定されるため、洋上風力発電設備に係る原状回復作業は通常プロジェクトファイナンスレンダーに対する債務の完済後になされると思われる。よって、プロジェクトファイナンスレンダーにとっては当該設備の原状回復作業に要する費用については、一般的に深刻な問題とはならないと考えられる。但し、当該原状回復費用が取引の当初から確保される必要があれば、プロジェクトファイナンスレンダーはそのファイナンスにおいて当該費用についても考慮する必要があることとなる。

(4)プロジェクトファイナンスにおける担保

プロジェクトファイナンスは事業のキャッシュフローを与信の対象として行われる取引であり、プロジェクトファイナンスにおける担保は、プロジェクトの個別資産に対する担保設定が必ずしも意味を成すものではなく、借入人の保有する一連に資産に対して担保設定がなされることによって一つの体系によりワークすることとなる(全資産担保)[*8]。継続事業価値が担保の目的となるため、新たな事業主体による事業の継続を可能とする仕組み(ステップイン)も必要となってくる。日本の一般的なプロジェクトファイナンスにおける担保契約としては、株式(社員持分)質権設定契約、プロジェクト関連契約上の債権質権設定契約、プロジェクト関連契約上の地位譲渡予約契約、土地賃借権譲渡担保契約、地上権抵当権設定契約、集合動産譲渡担保契約、保険金請求権質権設定契約、預金債権質権設定契約、工場財団抵当権設定契約等が締結されるのが一般的である。

洋上風力との関連では、特に海域部分の占用許可について担保の対象とすることができるかどうかが問題となる。この点、占用許可については、道路占用許可・下線占用許可等と同じように、海域の管理者の許可を要するものであり、許可者に特権的地位を認める特許であり、私権としての権利性を正面から認めることはできない(多賀谷一照「詳解 逐条解説 港湾法 改訂版」P193・P200参照)。また、港湾法及び再エネ海域利用法ともに計画の認定に関する地位承継について規定は置かれているものの(港湾法第37条の9及び再エネ海域利用法第20条)[*9]、占用許可に関しての地位承継について規定は存在しないことから、占用許可に関して地位譲渡予約を行うことは困難に思われる[*10]。よって、道路占用許可・河川占用許可と同様に、プロジェクトファイナンスにおいては担保対象とはすることは基本的に不可能であると考えられるが、プロジェクトファイナンスにおける全資産担保との関係、特に海域占用という重要性に鑑み、担保との関係での実務的な取扱いについてさらなる検討を要する点であろう[*11]

[*8] プロジェクトファイナンスにおける担保設定は、継続事業価値の把握のほかに、第三者によるプロジェクト資産への執行(差押等)排除の意味もある。
[*9]
洋上風力発電設備の所有権その他の洋上風力発電設備の設置及び維持管理に必要な権原を取得した者が地位承継を行うことができるとされている。但し、港湾法及び再エネ海域利用法ともに行政機関の承認が前提とされている。
[*10]
港湾法上の許可につき、担保設定に関して言及する条例(愛知県)、港湾法施行細則で地位承継手続の届出の様式を定めるもの(香川県)がある。
[*11]
プロジェクトファイナンスを調達する場合に、行政機関との間において、公共物の賃貸借及び占用許可に関して、別途協定書等を締結のうえ、行政機関は借入人が失期した場合及び期間更新について一定の配慮を行う旨の合意を行う実務も存在する。

5.最後に

上記の通り洋上風力発電においてはプロジェクト開発段階から関係者の協力の下、綿密なリスク分析が重要であり、プロジェクトファイナンスレンダーとの間においての調整を案件当初から入念に行っていく必要があると思われる。

本稿作成に当たっては、Simmons & Simmonsの足立直子弁護士にご協力をいただいた。

越元 瑞樹

*アイキャッチ Photo by Nicholas Doherty on Unsplash

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