【寄稿】洋上風力発電事業の今後の展望とファイナンスの検討方法

2019.04.29 ナレッジ

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


(1)建設契約

プロジェクトファイナンスを前提とする建設契約においては、一般的にフルターンキー(一括引渡)契約を前提として締結される。欧州における洋上風力発電事業についてはフルターンキー及びフルラップのEPCは一般的ではなく、マルチコントラクト型(工事ごとに数社の請負人と契約する形態)が一般的であると言われている[*5]。特に浮体式の洋上風力発電の場合には請負人による請負形態がさらに細分化される傾向にあるようである。洋上風力発電は他の発電事業と比して、特に専門性の高い工事が多く、単独の請負人が全ての工事に関してリスクをカバーすることができないことが理由とされる。上記によりプロジェクト自体の遅延リスク及び完工リスクはフルターンキー契約より高まる。プロジェクトファイナンスを前提とする場合には、レンダーが当該洋上風力発電は依然バンカブルであると考えるためには、当該リスクをカバーするため要因分析が必要となるが、例えば以下のような事項が検討事項として考えられる。

(a)請負人間及び重要な工事間のインターフェースにつき、強力なプロジェクトマネージャーが存在し、プロジェクトを適切に運営すると見込まれる場合

(b)スポンサーのプロジェクトへのコミットメントが強い場合(DE比率(Debt to Equity Ratio)のEquity比率が高いかどうか、スポンサーに風車メーカー及びオフテイカーが含まれるかどうか等が参考になる。)

(c)請負人が工事につき経験豊富である場合及び請負人が自前でSEP船(自己昇降式作業台船)を調達できる場合[*6]

(d)遅延賠償、リザーブ及び保険カバーが十分な場合。

なお、欧州における洋上風力発電事業を対象とするプロジェクトファイナンスについては、2013年頃を境にして順調な伸びを示しているようであり(IEA-RETD「Comparative Analysis of International Offshore Wind Energy Development」2017年3月P86参照)、貸出期間を15年程度とし、またDE比率は現在Equity20%~25%、Debt75%~80%程度を推移しているようである(Green Giraffe「Lessons learnt from the European OW sector」2018年1月25日P13参照)。一方で浮体式の洋上風力発電についてはDE比率のEquityの比率はより高く設定されると考えられ(Green Giraffe「Floating Wind-Risk analysis towards bankability」2018年2月6日P29参照)、開発段階で与信を付与できるか、また長期与信を付与することができるかの点についても要検討事項となると考えられる。洋上風力発電事業における経験値については、洋上風力発電のみではなく、洋上の石油及びガス発電・掘削の経験値も参考にされるものと思われ、また外資企業による海外における洋上風力発電事業の経験・技術協力等も重要な役割を果たすと思われる。

(洋上風力発電における想定ストラクチャー 筆者作成)

[*5]
着床式の洋上風力発電事業については、例えば風車供給契約とBOP(Balance of Plant)契約(風車供給以外の工事部分に関する契約)が当事者間において締結される。

[*6] SEP船を請負業者が自前で調達できる場合には、SEP船の調達に関しても請負業者がリスクテイクすることが可能となる。各請負業者が、SEP船の建造を進めていることも報道されている(「洋上風力、建設各社に商機 五洋建設が専用船を公開」日本経済新聞2019年2月5日)

(2)運営管理業務委託契約(O&M契約)

O&M契約についても、海上の作業が想定されていることから、高度の専門性が要求される業務であり、単独のO&M業者によることなくそれぞれの専門性に応じて複数のO&M業者によりO&M契約が受託される可能性があるほか、風車メーカー等、受託者として適任である者が限定され、またプロジェクトファイナンスを調達する場合には固定価格及び固定買取期間全期間をカバーする契約を締結することができるかどうかがポイントとなる(IEA-RETD「Comparative Analysis of International Offshore Wind Energy Development」2017年3月P75参照)。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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