【レポート】(全2回)インフラファンドで変えるPPP Part.2

2017.01.17 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:中村 裕司


投資に際してのリスク要因とは

投資に当たって考慮すべき重要なリスク因子には次のようなものが挙げられる。

レバレッジ
 レバレッジ(てこ上げ)が増えるほど、プロジェクトのリスクは増大する。既存分野への投資は一般にはより安定的だとされている。その半面、高利回りを生むために積極的にレバレッジをかけることが容易であり、過大な需要予測をして誤ったり、予期せぬ景気局面に遭遇したりすると、大きなリスクを伴う結果ともなる。

交通量の変動
 収益が利用料金に負う部分が大きい有料道路投資では、契約期間中の交通量の変動が何にも増して利回りに影響する。新規分野に対して収益が安定していると言われる既存分野であっても、無料の競合道路が将来、出現したり、ガソリン価格が急騰したり、通行料金を急激に値上げせざるを得ない経済局面に出会ったりすると、事業収入が縮減する。その結果、契約において事業収入がある程度、保証されているアベイラビリティ・ペイメントによる新規プロジェクトの方がリスクが小さくなったりもする。

インフレ
 道路のように寿命の長い資産への投資では、インフレは利益に多大な影響を与える。こうしたリスクはインフレ調整条項などを契約時に設けてリスクを軽減する必要がある。急激なインフレは、収入に負の影響を与えるからである。

政治リスク
 契約の打ち切り、税制の改正、通貨リスクなど、政治リスクはより広い意味でのリスクとなる。近年の日本における民主党の高速道路無料化政策などは、道路コンセッション事業を目指す主体にとっては、大きな政治リスクであると言える。

ファンドと債務の有効な組み合わせ

 今後、日本においてコンセッション事業を生み出すために、今まで解説してきた米国の「革新的な債務戦略」と世界の趨勢である「インフラファンド」の組み合わせを形成することが有効である。

 周知の通り、世界の先進国は増大する交通需要とそれに対応する財源不足の溝を埋めるために腐心している。近年の英国や米国の道路整備の潮流は、そのジレンマを解消するために種々の方策を展開中である。
 コンセッション、あるいは広くPPP政策は、この問題を解決する可能性を有しており、各国と同様に財源不足に悩む日本においても、いずれ有効な打開策になるものと考える。こうした状況の中、民間による道路インフラへの出資・融資を促進するためには、投資に対する呼び水として、米国が実施している「革新的な債務戦略」に類する資金調達手法を開発することが、まず必要となる。

 道路整備を採算性の面から単純に分類すると、都市高速のようにコマーシャル・ベースでも十分に費用を回収できる需要の大きな道路、交通量の少ない地方道路のように費用を回収することは困難な道路、そして、その中間に位置する道路の三つとなる。
 第一の例は、採算性が確保できることから民間による事業経営が十分に成立する。つまり、民間による出資や融資は集まりやすい。第二の例は、民間による投資や融資は考えにくく、公的資金を全面的に投入しなければ成立しないプロジェクトである。
 問題は、その中間くらいの採算性を有する道路である。つまり、民間資金だけでは事業の採算性は難しいが、ある程度、公的助成の支援があれば成立するプロジェクトの場合である。
 例えば、民間資金だけでは採算性のメドが立たないプロジェクトに対して、3分の1を上限とした政府助成金を拠出し、政府が自ら劣後債を引き受ける政策を示せば、民間の投資意欲を強く促すことができる。これは、すでに米国が実施しているTIFIAに類する助成制度である。米国で実施されている道路助成制度の概念を下図に掲げる。

03(米国連邦政府補助の仕組み)

 このように、公的助成が資金の下支えをする制度が生まれれば、いまだ熟していない日本のインフラファンドの育成を促進できるのではないだろうか。先に述べたとおり、外国のファンドは十数%の利回りを期待している場合が多く、今日の日本の経済環境では彼らの期待を満足させるプロジェクトは稀であろう。
 しかし、日本発のファンドであれば、特に年金等の機関投資家中心のファンドであれば、日本の現状に理解を示した数%の利回りでも投資機会と見る向きが期待できる。2001年7月に茨城県が、県内の廃棄物処理施設から得られる収入を元利払いに充てるレベニュー信託方式(指定事業収益債)を、国内の自治体として初めて発行した。自治体発行のレベニュー債に加え、ソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)の組成も可能性はある。

05(インフラ資金の構成例)

【情報ソース】
・Innovative State Transportation funding and Financing(2009年1月)
・What are infrastructure funds? By Kelly DePonte, Probitas Partners

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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