2026.01.22
【寄稿】プロジェクトファイナンスのMyths and Truths 途上国民間投融資促進の為に(後編)
2024.09.05 ナレッジ ハブ
3-2 政府とのコンセッション契約の信頼度
2番目の事例は、南部アフリカの銅・コバルト選鉱屑プロジェクトです。この地域では、長年に渡り、旧式の銅とコバルトの採掘が行われ、残存ミネラルを多く含んだ選鉱屑が堆積して環境問題も発生していました。そこで、最新技術の精錬工場を建設して、選鉱屑から残存ミネラルを抽出しようというプロジェクトでした。当該国政府は世界銀行の支援により、政府・事業者・住民などが鉱山からの利益を適切に享受する為の新しい鉱山法を施行したところであり、本事例はその適用第一号として関連する大統領令も発令され、コンセッション契約に問題が発生するとは思えませんでした。
a) 契約ストラクチャー(下図参照)
First Phaseのフィージビリティ調査の為の契約トストラクチャーはシンプルでした。政府は無償でSPVのマイノリティ株式を取得しました。民間スポンサーがマジョリティ株式を取得し、IFCと地域開発銀行はそれぞれマイノリティ株式を取得しました。鉱山省とSPVの間にコンセッション契約が締結されました。そして、関連する大統領令も発行されました。そして、製錬工場の80%が完成した時に問題が発生しました。
(銅・コバルト選鉱屑プロジェクトの契約ストラクチャー 筆者作成)
b) 想定されたプロジェクトの強み
鉱山のようなExtractive industryのプロジェクトでは、時に政府による接収などの問題が発生しますが、本件では、新鉱山法に基づき周到な準備と手続きが行われており、信頼できる民間スポンサーと共同で、政府や地域住民を含むすべてのステークホルダーとのWin-winの関係が築ける案件と思われました。
- 経験豊富で信頼できる民間スポンサーによる実証された技術
- 新鉱山法に従ったコンセッション契約が政府とSPV間で締結され、必要な登録が完了
- 国有鉱山会社がSPVに参加する為の大統領令が発令
- 地域開発銀行とIFCが参加
c) 実際に発生した問題
コンセッション契約が政府により一方的にキャンセルされました。世界銀行とIFCの経営幹部が当該国の大統領や政府高官と複数回会談し事態の是正を求めましたが、状況は好転せず、IFCは民間スポンサーと地域開発銀行と共に、IFC史上初めて、その加盟国を告訴しました。裁判は、コンセッション契約の紛争解決条項に従い、パリの国際商業会議所仲裁裁判所で行われました。同時に、IFCは当該国への全ての新規投融資を停止しました。しかし、パリでの裁判が進行中にも拘わらず、当該国地方裁判所の一方的な決定に基づきプロジェクト資産が差し押さえられ、コンセッション契約が、政権に近しい第三国投資家に売却されました。そして、この第三国の投資家も巻き込んだ法廷闘争が続きました。最終的に当事者全員による和解が成立し、IFC・民間スポンサー・地域開発銀行側は、和解金を第三国投資家より受け取って、プロジェクトを放棄しました。この和解により、IFC側は表面的な投資額は回収できましたが、将来の逸失利益の回収は達成できませんでした。完璧な形で締結された契約でも、一方的にキャンセルされる可能性があり、それが発生した場合に、解決の為には「裁判も辞さず」という心構えも必要です。しかし、法廷闘争には多大な費用と時間が必要であり、和解の機会を探る努力もするという、硬軟合わせた対応を忘れてはなりません。
(開廷前にパリ国際商業会議所仲裁裁判所法廷を訪れた筆者)
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