【コラム】(プロファイバンカーの視座)第4回 フォースマジュール規定がない

2018.05.24 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


 先日海外事業投資に携わっている商社の若い方と食事をしながらお話しをしていた。そのときに「融資契約書にはフォースマジュール(Force Majeure)の規定はないんですか」と訊かれた。フォースマジュールというのは不可抗力のことである。不可抗力とは通常地震、津波、火山、台風などの天変地異を指す。従って、フォースマジュールの規定とは不可抗力の事態が発生したときのことを定めた規定である。その規定には、不可抗力の場合契約当事者は債務を免れる、と通常規定されている。

 不可抗力の場合に当事者が債務を免れるとは具体的にどういうことか。例えば、地震が発生したために工場の操業が停止したとする。地震が止んだら、すぐ工場の操業を再開できるかというと、そう話は単純ではない。規模の大きい地震であれば、工場の主要機器が正常に作動するかどうか点検しないといけない。外観だけを見て大丈夫、とはならない。最近の工場にはセンサー等精密機器が多数使用されている。そういう個々の機器が地震の影響で正常に作動しなくなってはいないか確認しないといけない。そうすると、しばらく製品の出荷ができなくなる。製品の出荷ができなくなると、販売先と約束していた製品供給の義務(債務)を果たせなくなる。不可抗力の場合、この製品供給の義務(債務)を免れる、という意味である。そうすると、販売先は工場主に対して損害賠償を求めることはできない。不可抗力(天変地異)が原因なので、工場主を責めることはできないということである。

 実はつい数か月前にも地震のためフォースマジュール規定が援用された実例がある。パプアニューギニア(PNG)の液化天然ガス(LNG)事業である。同国では米国のエクソンモービル社が主導して、2014年以来ガスを生産し液化して輸出している。日本にもPNG産のLNGが輸入されている。今年2月同国でマグニチュード7.5クラスの地震が発生した。余震も続いた。エクソンモービル社は生産停止を余儀なくされた。フォースマジュール規定を援用して販売先へのLNG供給義務(債務)を免れた。約1カ月半余事業を停止して生産設備の点検を終了し、ようやく生産を再開した。

 製品の販売契約書をはじめ通常の商業契約書にはフォースマジュール規定が存在する。不可抗力で製品を引き渡すことができなくなるという事態は起こり得るからである。ところが融資契約書にはフォースマジュール規定が存在しない。冒頭の商社の若い方が疑問に思われたのはもっともである。商社の方であれば、さまざまな商業契約書に目を通す機会があろう。そこにはフォースマジュール規定が必ずある。ところが融資契約書には見当たらない。海外の融資契約書(ローンアグリーメント)にも日本の融資契約書にも見当たらない。

 日本の民法は金銭債務について「債務者は不可抗力をもって抗弁をなすことを得ず」(419条3項)と規定している。金銭債務(お金を払うという債務)は不可抗力を理由に免れることはできないという意味である。そうすると、融資を行う行為も返済を行う行為も金銭債務なので、融資契約書にはフォースマジュール規定が不要だということになる。

 つまり、フォースマジュールをめぐって「製品を引き渡すような債務」と「金銭債務」とは明確に区別されているのである。前者は不可抗力の場合債務を免れるが、後者は免れない。ちなみに、最初の工場の例や次のLNG生産設備の例で、製品を購入している販売先は仮に販売先の周辺で地震が発生したとしても、原則購入代金の支払い義務は免れない。なぜなら、購入代金の支払い義務は金銭債務だからである。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Darren Chan on Unsplash

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