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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第1回

2017.04.06 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


2.交通インフラ事業の特性

 プロジェクトファイナンス・レンダーの視点で交通インフラ事業を見てゆくと、交通インフラ事業にはいくつかの特性があることが分かる。交通インフラ事業の特性として、次の4つの点に注目してみたい。

 2-1 外部経済性の存在
 2-2 需要リスク
 2-3 土木工事が多い
 2-4 新興国での為替リスク

2-1 外部経済性の存在

 交通インフラ事業には外部経済性がある。
 外部経済性とは、他の経済主体にとって有利に働く現象をいう。外部経済性の教科書的な例として、養蜂家と果樹園の関係があげられる[*2]。養蜂家が近隣にいてくれると、ミツバチが果樹の受粉を促してくれるので果樹園は生産を増やすことができる。つまり、果樹園は養蜂家から経済的な便益を受けていることになる。こういう場合に、養蜂家は果樹園に対して外部経済性を有するという。因みに、外部経済性の反意語は外部不経済性という。外部不経済性は他の経済主体にとって不利に働く現象を指す。外部不経済性の典型的な例は公害である。

[*2]ウィキペディア「外部経済」の項参照

 さて、交通インフラ事業に外部経済性があるとしたが、それは具体的にどういうことであろうか。鉄道や道路の例で考えてみる。鉄道や道路が完成すると、その沿線・沿道の不動産開発が促進される。住宅が建てられ人口が増え、商業施設も増えてくる。とりわけ、首都圏郊外の鉄道の駅の周辺は、新駅の誕生を機に開発の進展が著しい。戦後日本の首都圏郊外でよく見られた光景である。鉄道の敷設によって莫大な外部経済が生まれる。もっとも、鉄道の敷設は元来そういう沿線一体の経済発展を企図したものであろう。従って、交通インフラ事業の真骨頂はこの外部経済性にあると言っても過言ではないと思う。交通インフラ事業にとって外部経済性があるというのは、交通インフラ事業の強みであり特長でもある。

 しかし、交通インフラ事業を一民間企業が主導する場合には、この外部経済性がかえって頭痛の種になることがある。どういうことかというと、当該交通インフラ事業が持つ外部経済性つまり諸種の派生的な収益機会を、自らが事業の収益として取り込むのが容易ではないからである。

 もう少し具体的に言うと、例えば乗客向けの鉄道を新たに敷設したとする。鉄道事業は乗客を運搬することである。鉄道事業の収益源は乗客が支払う運賃である。仮に外部経済性に伴う派生的な収益機会を追わず、この事業者が鉄道事業だけに特化したとしたらどうなるであろうか。つまり、鉄道を利用する乗客からの運賃収入だけの事業に特化する。他の事業は行わない。そうすると、おそらくこの鉄道事業の収益はさほど上がらないのではないだろうか。沿線の開発が進むにつれて沿線の人口が増え鉄道を利用する乗客の数も徐々に増加するであろうが、乗客から得る運賃収入だけでは収益はさほど上がらない。その結果、鉄道事業に投じた投資の資金回収は時間がかかることになる。

 この鉄道事業の例では、鉄道事業だけに特化することなく、沿線周辺の住宅建設や広く不動産開発などにも事業を拡大して鉄道事業が持つ外部経済効果を自ら取り込むのが理想である。そうすれば、収益性が遥かに上がる。仮に当該鉄道事業会社が躊躇していると、きっと他の事業者が沿線開発に進出してくる。当該鉄道事業会社が行ったとしても、他の事業者も参入し競争が起こるかもしれない。当該鉄道事業会社は鉄道の具体的なルートや駅を建設する場所を前もって知っているなど優位な立場にある。この優位性を生かさない手はない。外部経済効果を上手に取り込める立場にいるわけであるから、外部経済効果は自らが取り込むのが理想である。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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