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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第6回

2017.08.03 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


4-2 輸出信用機関との協働の留意点  4-2-1 早期に相談開始

 輸出信用機関と協働する上で実務的に留意すべきことは、輸出信用機関は一般に民間銀行よりも審査(デュー・ディリジャンス)時間が長くかかることである。どうして時間がかかるのか。それは民間銀行より慎重に審査をしているからなのか。それとも人員が不足しているからなのか。いずれかの理由あるいは両方の理由であることもあろう。しかし、筆者の見るところ、真の理由はいずれでもなさそうである。仕事を効率的に進めてゆくという点では、どうしても政府系組織は民間組織に及ばない。これが現実のようである。もっとも、これは組織文化の問題であって、そこに勤務する人の能力の問題ではない。しかし、実務の現場で重要なことは、輸出信用機関は審査に時間がかかるということを前提に、事業会社も民間銀行も手を打ってゆくということであろう。従って、輸出信用機関には早期の段階から相談を開始することが肝要である。そして、スケジュールにも余裕を持っておくことが必要である。さらに、輸出信用機関を利用しなくても済むような資金調達方法の代替案や次善策も準備しておくと、万が一のために安心かもしれない。

4-2-2 輸出信用機関の選択とプログラムの選択

 輸出信用機関との協働でもう1点留意しておきたいのが、どこの輸出信用機関を利用するのが適切か、そしてどのようなファイナンス・プログラムを利用するのが適切かという点である。欧州系の企業に設計・調達・建設を発注する場合や欧州系の企業から機材等を買い付ける場合には、欧州系輸出信用機関の利用を視野に入れるのは常道である。欧州系輸出信用機関には保険・保証を中心とした輸出金融のプログラムがある。主要な欧州系輸出信用機関はプロジェクトファイナンスにも精通している。具体的にはどこの国からどのくらいの金額の機材調達をするのかを見積もり、それに基づいて該当国の輸出信用機関それぞれと早期に相談を開始する。輸出金融の利用においては、機材調達の計画と資金調達の計画が重なる点に留意する必要がある。

 それから日本企業の場合、日本の国際協力銀行と日本貿易保険の利用を選択肢に入れておきたい。その場合に利用するファイナンス・プログラムを検討しなければならない。日本企業が海外事業に出資するのであれば、国際協力銀行の投資金融や日本貿易保険の海外事業資金貸付保険の利用を優先して考えて良い。他方、日本企業が海外で設計・調達・建設等を受注する場合や日本から機材や製品等を輸出する場合には、輸出金融(バイヤーズ・クレジット)を利用することになる。

 日本企業が海外事業に出資をし、かつ日本企業が設計・調達・建設等を請け負っている場合はどうであろうか。この場合、国際協力銀行の投資金融や日本貿易保険の海外事業資金貸付保険の利用も可能であるし、輸出金融の利用も可能である。しかし、国際協力銀行も日本貿易保険も同一案件に複数プログラムを同時に供与するのは回避する慣例がある。従って、どちらか一方に決めないといけない。一般論としては、輸出金融を止め、投資金融や海外事業資金貸付保険を優先することになろう。その理由は輸出金融ではOECDガイドラインの制約を受けるが、投資金融や海外事業資金貸付保険ではなんら制約を受けないので、例えば融資金額面などで自由度が高いからである。既に見てきたベトナム・ニソン石油精製プロジェクトや豪州イクシスLNGプロジェクトの実例でも、日本企業の出資と日本企業による設計・調達・建設の両方の要素が混じっている。しかし、両案件共国際協力銀行の投資金融と日本貿易保険の海外事業資金貸付保険が利用されている。

 以上

*アイキャッチ Photo by Nik MacMillan on Unsplash

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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