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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第4回

2017.07.20 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 これは歴史的な経緯や政府系金融機関の役割についての考え方の違いによるのであろうと推測される。歴史的な経緯とは、日本は戦後高度経済成長を迎えたころ民間部門の資金需給が逼迫した。民間金融機関からの資金供給量は産業界全般の資金需要量を賄い切れず、政府部門からの資金供給を余儀なくされた。つまり、政府系金融機関による資金供給が積極的に行われた。そういう歴史的な背景の中で日本の輸出金融でも直接融資が重要視されてきたのではないかと推測される。しかしながら、90年代以降民間部門の資金需給は大幅に緩和が進んでいる。現在では民間金融機関に運用しきれないほどの資金が集中している。もはや資金需給逼迫の状態は遥か昔のことである。

 政府系金融機関の役割についての考え方であるが、欧米先進国の保守層・高所得者層の人たちの政府系金融機関に対する考え方は、「小さな政府」の考え方に準じている。つまり、政府系金融機関の役割を必要最小限にするべきだと考え、例えば民間の業務を圧迫しかねないような政府系金融機関の在り方に非常に慎重である。それに対し、日本の産業界の政府系金融機関に対する考え方は必ずしも「小さな政府」のような考え方が主流を占めている訳ではない。むしろ、政府系金融機関にはできるだけの産業支援を期待しており、「大きな政府」に抵抗感は少ない。従って、資金需給逼迫のような歴史的な理由はもはや霧消しているが、産業界による政府系金融機関に対する期待感は依然強く、この期待感の強さが日本の輸出金融の手法を存続させているのではないかと推測される。

 既に指摘の通り、政府系輸出信用機関による融資は、保険・保証とは異なり、民間銀行との競合の可能性があり、民間銀行の業務を圧迫する懸念を払拭できない。そういう点では、保険・保証に徹する欧州の輸出信用機関の在り方は民間銀行との競合の可能性を最大限排除しており、民間銀行の業務圧迫の懸念をほとんど払拭している。政府系金融機関の中長期的な理想像としては、保険・保証を中心とするファイナンス手法が制度的に優れた手法であろうと考えられる。

 さらに、保険・保証であれば融資契約書の当事者になる必要がないので、融資契約書のドキュメンテーション作業(契約書作成・交渉の作業)を割愛することができる。これは作業の軽量化・効率化に資する。また、融資の供与は信用格付けの高低を問わず資金力さえあれば行うことができるが、保険・保証の供与は信用格付けの高い金融機関でないと行うことはできない。そういう意味では一般に信用格付け水準の高い政府系金融機関はその利を生かし、保険・保証を専ら供与することは経済合理性にも適っている。

(つづく)

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