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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第4回

2017.07.20 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 国際協力銀行の融資返済と民間銀行の融資返済とがプロラタで行われる通常の場合と民間銀行の優先償還が行われる場合とを図解すると次の通りである。前者の場合が下記図解の左側【通常のプロラタ返済】で、後者の場合が下記図解の右側【民間銀行の優先償還】である。図解により視覚的に認識すると理解が深まると思う。

 民間銀行の優先償還が行われる場合に留意すべき点は、借主から見た時の融資の返済スケジュールがどうなるかである。借主から見た時の融資の返済スケジュールは一切影響を受けない。この点は重要である。上記図解で見ると、民間銀行の融資残高の推移と国際協力銀行の融資残高の推移とを合体した、総融資残高の推移(つまり、直角三角形の右下がりの斜線部分)は【通常のプロラタ返済】の場合と【民間銀行の優先償還】の場合とで全く同一である。これが借主の視点から見て、融資の返済スケジュールに一切変更がないことの証左である。つまり、民間銀行の優先償還は、借主から支払われた融資返済金の充当方法を民間銀行と国際協力銀行との2者間の間で変更したものであって、借主の融資返済スケジュールは一切変更していない。

 さらに最近の民間銀行の優先償還で注目すべき点は、日本貿易保険の供与する保険のカバー率が上昇する点である。既述の通り、日本貿易保険の信用危険の保険のカバー率は通常90%から95%程度、非常危険の保険のカバー率は97.5%から100%程度である。ところが民間銀行の優先償還を行うと、信用危険の保険のカバー率も非常危険の保険のカバー率も100%に上昇する。優先償還によって返済期間が短縮されるのに加えて、保険のカバー率も100%に上昇するのである。保険のカバー率を100%まで上昇させる制度の狙いは、信用危険と非常危険の両者で民間銀行のリスクを完全に除去し、民間銀行の融資参加を促すものと推測される。しかし、保険のカバー率を100%とすると、民間銀行は一切のリスクを取らないということになるので、民間銀行のモラル・ハザードが発生する懸念が残る[*24]

[*24] 日本の各都道府県に存在する信用保証協会が過去に二度100%保証を行ったことがあり、いずれも民間銀行のモラル・ハザードを招いたと言われている。1回目が1998年10月に導入した中小企業金融安定化特別保証制度であり、2回目がリーマン・ショックの対応策として2008年10月に導入した緊急保証制度である。橋本卓典『捨てられる銀行』(講談社 2016年)p123

 もっとも、案件によっては返済期間の短縮だけでは十分ではなく、保険のカバー率も100%でなければ民間銀行が融資に参加できないようなリスクの高い案件も存在する。そうすると、民間銀行の優先償還の場合に一律すべて保険のカバー率100%とする現行の運営には改善の余地がありそうである。改善策として考えられるのは、優先償還プラス保険のカバー率100%という現行方法に加えて、優先償還だけを行い保険のカバー率は従前通りとする選択肢を残しておくべきであろう。そうすれば、民間銀行に発生しかねないモラル・ハザードをある程度抑止することが期待できる。

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