• Home
  • ナレッジ ハブ
  • 【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第1回

【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第1回

2017.06.30 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 なぜ民間銀行は自ら全面的に事業リスクを取らなかったのであろうか。事業リスクを取らないのであれば、プロジェクトファイナンスの醍醐味がない。少なくとも2つの理由が考えられる。

 まずひとつは、民間銀行にとって当時もそして現在も、ベトナムにおける長期の融資は難易度が高いからである。これはベトナムのカントリーリスクの問題である。民間銀行による10年以上の長期に亘る融資はベトナムではほとんど行われていない。融資金額が大きくなればなおさらである。本件ニソン石油精製プロジェクトでは融資期間が16年に及ぶ。既述の通り、融資金額は総額50億米ドルと大きい。民間銀行のほとんどがベトナムのカントリーリスクを懸念し、輸出信用機関の保険・保証のない融資を忌避したのは想像に難くない。カントリーリスクが懸念される国に対して長期の債権を持つことを回避するのは、民間金融機関として常道である。

 もうひとつの理由として、上記で指摘した輸入代替事業が持つリスクや課題がある。仮にベトナムにおける事業であっても、外貨を稼ぐような案件、例えば石油やLNGの開発事業であったならば、民間銀行が全面的にリスクをとって融資を行うことは十分可能であったであろう。新興国のカントリーリスクは一切取ることができない、というわけではない。例えば、パプア・ニューギニアで行われているLNG事業(通称PNG LNG)[*3]は外貨を稼ぐ輸出型の事業であったので、民間銀行主体でプロジェクトファイナンスの融資組成を成功させている。PNG LNG事業向けのプロジェクトファイナンスは2009年に組成され、融資額140億米ドル(約1兆4千億円)に達した。因みに当時のパプア・ニューギニアの国全体のGDPは81億米ドル[*4]に過ぎなかったので、国のGDP規模を遥かに上回る融資金額が、民間が主導する一事業で調達されたことになる。つまり、輸入代替型の事業モデルと輸出型の事業モデルとでは事業リスクの点で大きな違いがある。プロジェクトファイナンス・レンダーはこの両者の違いを明確に区別している。本件石油精製プロジェクトは新興国における輸入代替事業であるので、民間銀行がリスク面で食指を伸ばさなかったのはやむを得ないと言っていい。

[*3]米国エクソン・モービルが主導するLNG事業。2014年から操業を開始し、現在年間約700万トンのLNGを生産・輸出している。そのうち約半分のLNGは日本が輸入している。
[*4] 世界銀行のデータによれば2009年のパプア・ニューギニアのGDPは81億米ドルである。http://data.worldbank.org/country/papua-new-guinea

 上記のような理由で民間銀行が融資に消極的という背景があったことから、本件石油精製プロジェクト向けプロジェクトファイナンスの組成においては各国の輸出信用機関を最大限に動員して融資を組成したというのが実態であろうと考えられる。輸出信用機関を活用しなければプロジェクトファイナンスの組成が成功しなかった可能性が高い。そういう意味で輸出信用機関を的確に活用した好事例の案件ということができる。

 さて本稿の構成を説明する。まず、輸出信用機関が取り扱う「輸出金融」全般を見てゆく(第2章)。次に日本の輸出信用機関を見てゆく(第3章)。最後にプロジェクトファイナンスにおける輸出信用機関との協働作業を見てゆく(第4章)。

【関連記事】
【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第1回

【レポート】(全2回)インフラファンドで変えるPPP Part.1
【レポート】(全3回)海外では一般的な「アベイラビリティ・ペイメント方式」 Part.1

【おススメ!!】
セミナーのご紹介:『【実践プロジェクトファイナンス】2日間総合パック』の開催 (2017年08月25日、09月01日)

1 2 3 4

, , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ