2024.12.04
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第159回 プロジェクトファイナンス超入門(23)
2024.11.14 連載コラム
【なぜ銀行はバランスシートを大きくするとまずいのか】
前回は「なぜ米国の銀行はプロジェクトファイナンス業務でリードアレンジャーの上位行でなくなったのか」という点に注目してみました。この問いに対する答えは、次のようなものでした。
- プロジェクトファイナンスはやればやるほど融資残高が積み上がる。銀行のバランスシートが大きくなる。
- できれば銀行のバランスシートを大きくすることなく、収益を上げたい。
- そのためには手数料ビジネスがいい。M&Aや証券化の業務に注力するのが賢明だ。
上記の答えのうち、1点目の「銀行のバランスシートが大きくなる」とどうしてまずいのか、みなさんお分かりでしょうか。「銀行は預金を集めて、そのお金を融資に回して、その利ザヤで稼いでいるわけだから、ビジネスを大きくしていけば融資残高は増え、バランスシートが大きくなるのは仕方がないのでは?」と思われますか。確かに、融資残高が大きいということは、それだけ貸出利息も多く受け取れます。従って、銀行の収益に寄与します。しかし、融資残高が大きいというのはマイナス面もかなりあります。どんなマイナス面があるのか。融資残高が大きいこと、バランスシートが大きいことのマイナス面をご一緒に考えてみたいと思います。
マイナス面1:金融危機時に不良債権額が大きくなる。
融資残高が大きいこと、バランスシートが大きいことのマイナス面でまず指摘できるのは、金融危機が起こったらどうなるのか、という点です。金融危機が起こると、融資残高のうち不良債権となる比率が高まります。不良債権の比率が1%に達しただけでも、100兆円の融資残高を保有している銀行の不良債権額は1兆円になります。不良債権の比率が2%なら、不良債権額は2兆円になります。つまり、融資残高が大きくバランスシートが大きいと、金融危機時への耐性が脆弱となり、破綻の危険が高まるということです。これに対して、バランスシートの肥大化を抑え手数料ビジネスで収益を上げている銀行は、金融危機時に手数料収入は一時的に低下するかもしれませんが、不良債権の発生額を抑えることができます。金融危機時への耐性は、バランスシートの小さい銀行の方がバランスシートの大きい銀行よりも相対的に強いということになります。
ちなみに、「金融危機なんて、そう頻繁に起こるわけではないでしょ?」と思う方もいらっしゃると思います。確かに、頻繁に起こるわけではありません。頻繁に起こったら、困ります(笑)。しかし、過去を振り返ると、金融危機はほほ周期的に発生しています。日本の金融機関に大打撃を与えた直近の金融危機は1997~1998年の日本の金融危機です。銀行では北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行などが破綻しました。証券会社では三洋証券、山一證券などが破綻しました。米国・欧州の金融機関に大打撃を与えた直近の金融危機は2008年のリーマンショックです。米国の大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻しました。
金融危機は頻繁に起こるものではありませんが、一旦起こると大きな影響があります。ナシーブ・タレブの言葉でいえば「ブラック・スワン」ですね。従って、銀行をはじめとした金融機関はこれに備える必要があります。これはちょうど自宅の火災保険に加入したり、自動車の保険に加入したりするのと同じ考え方だと思います。自宅の火災が頻繁に起こるわけではないけれど、万が一起こると大変なことになるので火災保険に加入する。自動車の事故が頻繁に起こるわけではないけれど、万が一起こると大変なことになるので自動車保険に加入する。あいにく金融機関の破綻に対する保険などは存在しませんので、金融機関自身が破綻に備える以外にありません。その観点から、バランスシートの大きさ及びその内容に十分留意する必要があるということになります。
マイナス面2:総資産利益率(ROA)や自己資本比率が低下する。
上記の金融危機時の指摘は、金融危機が起こらなければ顕在化しませんね。従って、平常時には意識されることが少ないです。平常時でも融資残高が大きいこと、バランスシートが大きいことのマイナス面を確認できる財務上の指標があります。それは例えば、総資産利益率(ROA)や自己資本比率です。総資産利益率は利益額を総資産額で割ったものです。融資残高が増えると総資産額が増えますので、利益額がさほど増えていないとすると、総資産利益率は低下してゆきます。自己資本比率は自己資本額を総資産額で割ったものです。融資残高が増えると総資産額が増えますので、自己資本額がさほど増えていないとすると、自己資本比率は低下してゆきます。
つまり、融資残高が大きくなり、バランスシートが大きくなると、通常総資産利益率も自己資本比率も低下してゆく傾向があるということです。これが、融資残高が大きいこと、バランスシートが大きいことの平常時のマイナス面です。
(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのMario Améが撮影した写真
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