【コラム】(プロファイバンカーの視座)第157回 プロジェクトファイナンス超入門(21)

2024.10.10 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンス市場を主導する銀行】

前回は1995年から2015年までの20年間がプロジェクトファイナンス市場の高度成長時代だったというお話をしました。この20年間のプロジェクトファイナンス市場の年平均成長率は12.2%です。毎年毎年前年比12.2%も成長するというのは尋常なことではありません。しかも、それが20年間続いたわけですから、凄いことです。今振り返ってみると(当時はまったく意識することはありませんでしたが)、私がこういう時期にプロジェクトファイナンスの仕事に携わることができたのは非常に幸運だったと感じないわけにはいきません。

さて、プロジェクトファイナンスのレンダーになるのは主に誰なのか、という話題に目を転じたいと思います。プロジェクトファイナンスという融資あるいは貸出業務を行っているのは、もっぱら銀行です。プロジェクトファイナンスのレンダーになるのはほとんど銀行だということです。もちろん、市場全体から見ると割合はわずかですが、銀行以外の金融機関もプロジェクトファイナンスのレンダーになることはあります。日本ではリース会社や生命保険会社もプロジェクトファイナンスのレンダーになっています。海外では年金基金がプロジェクトファイナンスのレンダーになっている例があります。さらに、世界の輸出信用機関(ECA -Export Credit Agencies)もプロジェクトファイナンスのレンダーになります。日本でいえば国際協力銀行(JBIC)ですね。それから国際金融機関もプロジェクトファイナンスのレンダーになります。例えば、国際金融公社(IFC – International Finance Corporation)やアジア開発銀行(ADB – Asia Development Bank)といったところです。

プロジェクトファイナンスのレンダーになるのは主に銀行ですが、どこの銀行がプロジェクトファイナンスの市場を主導しているのでしょうか。まず、前回採り上げた1995年、2005年、2015年のそれぞれの年について、プロジェクトファイナンスの市場を主導するリードアレンジャーという役割を担った銀行名を見てゆくことにします。

【プロジェクトファイナンス市場 – リードアレンジャー・トップ5】(注1)

上記がそれぞれ1995年、2005年、2015年にリードアレンジャー上位5行(トップ5)にランクされた銀行です。リードアレンジャーというのは、プロジェクトファイナンスを主導的に組成する役割を担う者のことです。具体的には事業を評価し、借主と相談をして融資条件を決め、アンダーライト(underwrite)といって融資の引受を約束したりします。プロジェクトファイナンスに精通していないと、リードアレンジャーを務めることはできません。

上記でまず1995年を見ると、トップ5の中にBank of America、Chase(現JP Morgan Chase)、Citibankと米国の3大銀行が入っています。他の2行はオランダのABN AMRO、イギリスのBZWが入っています。つまり、米国と欧州の銀行がトップ5を占めていました。これは1995年の記録ですが、1990年代のプロジェクトファイナンス市場はおおむね米国と欧州の銀行が主導していました。

次に2005年を見てゆきましょう。RBSはイギリスの銀行、BNP Paribas、Societe Generale、Calyonの3行はいずれもフランスの銀行です。そして最後に日本のみずほ銀行。まず米国の銀行がトップ5から姿を消したという点にご注目ください。米国の銀行がトップ5から消えたのは、なにも2005年だけの出来事ではありません。2000年代に入って、米国の銀行はリードアレンジャーの上位にランキングされることはほとんどなくなりました。

最後に2015年をご覧ください。トップ5に日本のメガバンク3行がすべて出てきました。他の2行はどこかというと、台湾の銀行とインドの銀行です。ということはトップ5の銀行は日本の銀行とアジアの銀行で占めたということです。ここには米国の銀行はおろか欧州の銀行も見られません。これは2015年の記録ですが、日本の銀行やアジアの銀行がリードアレンジャーのトップ5に入るようになったのは、2010年代以降の恒常的な現象です。

2023年のデータもありますので、ご覧ください。

【2023年のプロジェクトファイナンス市場 – リードアレンジャー・トップ6】(注2)

2023年のリードアレンジャーについては、トップ6を見てみることにします(そうすると日本のメガバンク3行の名前をすべて見ることができますので)。2023年のトップ6には日本のメガバンク3行すべてが入っている他、スペインのSantander、フランスのSociete GeneraleとCredit Agricoleが入っています。ということは、トップ6は日本の銀行3行と欧州の銀行3行で占めたということになります。ここにも米国の銀行の名前はもはや見られません。

(次回に続く)

(注1)
Project Finance International – League Tables 1995, 2005 & 2015から筆者が作成。
(注2)
LSEG Data & Analytics社のGlobal Project Finance Review Full Year 2023から筆者が作成。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashMilada Vigerovaが撮影した写真

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