2024.10.05
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第156回 プロジェクトファイナンス超入門(20)
2024.09.26 連載コラム
【プロジェクトファイナンス市場の成長の軌跡】
第151回から前回まで、2023年のデータを見ながら世界のプロジェクトファイナンス市場を見てきました。まず地域別に見てゆくと、プロジェクトファイナンス市場の中で米州市場が一番大きく、案件数も一番多いです。それに次ぐのが欧州・中東・アフリカ市場で、欧州・中東・アフリカ市場では1案件当たりの融資金額が大きくなる傾向も見られます。アジア太平洋・日本の市場は3市場の中では一番小さく、その割に案件数が多いため、1案件当たりの融資金額が小さくなる傾向が見られます。
セクター別に見てゆくと、「電力」分野の案件が圧倒的に多いです。そして「電力」分野の案件のうち約9割は再生可能エネルギーの案件が占めています。一方で、「電力」分野の案件は、他の分野の案件に比べて1案件当たりの融資金額が相対的に小さいです。「石油化学」「石油・ガス」「通信」などの分野は1案件当たりの融資金額が平均9億米ドル~15億米ドルにも及ぶのに対して、「電力」分野の1案件当たりの融資金額は平均2億米ドル強に過ぎません。これは「電力」分野では再生可能エネルギーの案件が多いことと関連しています。再生可能エネルギー事業は通常10億米ドルを超えるような大規模なものは珍しいからです。
さて、2023年の世界のプロジェクトファイナンス市場の規模は3,550億米ドル(約53兆円)です。3,550億米ドルという市場規模に成長するまでの軌跡はどうだったのでしょうか。
【プロジェクトファイナンス市場の過去の成長】(注1)
上記の図は、1995年、2005年、2015年それぞれの世界のプロジェクトファイナンス市場の規模を示したものです。金額の単位は米国ドルでBillion(10億ドル)です。1995年が270億米ドル(約4兆円)、2005年が1,660億米ドル(約25兆円)、2015年が2,780億米ドル(約42兆円)です(注2)。
上記の図から一目瞭然ですが、2015年の市場規模は1995年の市場規模の約10倍に成長しています。すごい成長ぶりですよね。20年で10倍になるためには、年平均12.2%の成長を毎年続ける必要があります。言い替えると、毎年毎年前年比12.2%の成長を20年間絶え間なく続けると20年で10倍になります。これは大変なことです。ちなみに、日本の高度経済成長期、日本のGDPが10年で2倍になったと言われています。10年で2倍なら、年平均7.2%の成長が必要です。
2023年のプロジェクトファイナンス市場の規模は3,550億米ドルでした。2015年のプロジェクトファイナンス市場の規模は2,780億米ドルです。2015年から2023年までの8年間で市場規模が2,780億米ドルから3,550億米ドルにまで成長しました。この8年間の年平均成長率を計算すると、約3.1%だったということになります。なお、第151回で、プロジェクトファイナンス市場の規模は2013年から2023年までの10年間で約7割成長したと指摘しました。この10年間の年平均成長率は約5.4%です。いずれにしても、2010年代以降プロジェクトファイナンス市場の成長率は鈍化余儀なくされました。市場の規模が40兆円50兆円という規模になってきましたので、致し方ありません。それでも、いまでも成長を続けているということが凄いことだと思います。
本稿の要約に入りたいと思います。
- 1995年から2015年までのプロジェクトファイナンス市場は高度成長時代でした。この20年間の年平均成長率は12.2%にも及びます。
- 2015年以降のプロジェクトファイナンス市場は市場規模が非常に大きくなり、成長率は鈍化してきています。2015年から2023年までの8年間の年平均成長率は約3.1%です。
前にも触れましたが、私が邦銀勤務時代に初めてプロジェクトファイナンスの業務に携わったのは1990年のことです。1990年のプロジェクトファイナンス市場の規模がどれくらいだったのか。手元に資料がないので正確なことは言えませんが、1995年が270億米ドル(約4兆円)ということから推測すると、おそらく200億米ドル(約3兆円)に満たなかったのではないかと思います。思い起こせば、当時米国市場の発電案件(主にガス火力発電のコジェネレーション)は活発でした。しかし、欧州・中東・アフリカ市場およびアジア太平洋・日本の市場は1年間に片手で数えられるくらいの数の案件しか出てこない状況でした。そして、案件が出てきても、調印するまでに随分時間を要していました。従って、当時では今日のようなプロジェクトファイナンス市場の成長ぶりを想像すらできませんでした。ましてや自分がプロジェクトファイナンスの分野で将来独立して仕事をするなどとは、考えたこともなければ夢想したことさえありませんでした。
(注1)
Project Finance International – League Tables 1995, 2005 & 2015から筆者が作成。
(注2)
本稿でも1米国ドル=150円で換算します。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのAnna Jiménez Calafが撮影した写真
【オススメ!】
・【オンラインLIVEセミナー】『 プロジェクトファイナンス入門 Part1 』の開催 (2024年10月17日)
・【オンラインLIVEセミナー】『 プロジェクトファイナンス入門 Part2 』の開催 (2024年10月24日)
・【セミナー(LIVE配信)紹介】『 プロジェクトファイナンスの実務【基礎編】~概観・リスク分析およびストラクチャリングを中心に~ 』の開催 (2024年10月31日)
・【セミナー(LIVE配信)紹介】『 プロジェクトファイナンスの実務【応用編】~実務能力強化のポイント~ 』の開催 (2024年11月07日)
【バックナンバー】
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第155回 プロジェクトファイナンス超入門(19)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第154回 プロジェクトファイナンス超入門(18)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第153回 プロジェクトファイナンス超入門(17)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第152回 プロジェクトファイナンス超入門(16)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第151回 プロジェクトファイナンス超入門(15)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第150回 プロジェクトファイナンス超入門(14)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第149回 プロジェクトファイナンス超入門(13)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第148回 プロジェクトファイナンス超入門(12)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第147回 プロジェクトファイナンス超入門(11)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第146回 プロジェクトファイナンス超入門(10)