2025.02.13
【寄稿】プロジェクトファイナンスのMyths and Truths 途上国民間投融資促進の為に(前編)
2024.08.29 ナレッジ ハブ
2. プロジェクト・ファイナンスの概要
2-1 プロジェクト・ファイナンスとは何か?
プロジェクト・ファイナンスは、借り手の信用基盤(Borrower’s general credit base)に基づく融資であるコーポレート・ファイナンス(*5)とは対照的に、プロジェクト自体の信用力に基づいた融資です。銀行や投資家が特定のプロジェクトのために資金を投融資し、その債務をプロジェクトのキャッシュ・フローを原資に返済する場合、それがプロジェクト・ファイナンスです。プロジェクト・ファイナンスはLimited recourse financingとかNon-recourse financingとも呼ばれます。
例えば、好業績の自動車会社であるT社が、T社名義で銀行融資を得た場合や、T社の子会社の銀行借入に対してT社が返済保証を銀行に差し入れた場合、その融資はコーポレート・ファイナンスによるリコース・ローンとなります。そして、銀行は融資を決定するにあたり、T社の信用状況を十分に審査した上で、融資を実行します。一方、T社が、海外で現地企業と合弁会社を新設し、その合弁会社が自動車工場建設の為に銀行融資を受ける場合、T社が返済保証を差し入れないのであれば、プロジェクト・ファイナンスとなります。この場合、銀行に対する融資の返済や金利支払は、合弁会社の事業が生み出すキャッシュ・フローが原資となるため、銀行は、事業の実現可能性とリスクを注意深く検討する必要があります。
2-2 プロジェクト・ファイナンスの参加者
(プロジェクト・ファイナンスの参加者 筆者作成)
プロジェクト・ファイナンスには、上図の様に、様々な参加者が想定されます。
a) Project Company:プロジェクトの主体ですが、通常、特定目的会社(SPVまたはSPC(*6))という、プロジェクトの為に新設されたプロジェクト・カンパニーです。
b) Sponsors:SPVの設立主体はスポンサーと呼ばれ、企業や個人が株主となります。
c) Other Equity Investors:株主には、スポンサー以外に、投資目的で参加する企業や個人もありえます。
d) Host government:当該国政府は、案件に応じて法制度整備、コンセッション契約、優遇税等の手配を行うこともあります。
e) Banks and Lenders:レンダーとしては、バイラテラルやマルチラテラルの開発金融機関、国際商業銀行や地場の銀行などがあります。
f) Advisors:法務・財務・技術・環境などの様々なアドバイザーが必要に応じてSPVに起用されます。
g) Insurance Co.:海上火災保険・第三者賠償保険・投資保険などを供与する保険会社もプロジェクト・ファイナンスにおいて重要な役割を果たします。
h) EPC Contractors:工場等の建設工事にはEPC Contractorが必要となってきます。EPCとはEngineering, Procurement and Constructionのことですが、一つの契約者が工事の完成まで請け負うターンキイ契約と、SPVがバラバラに資機材を購入し、各種建設工事を個別発注するという契約手法があります。実績豊富な信用できる契約者とターンキイ契約を結ぶことは、工事遅延や性能などに関する完工リスクが軽減できますが、表面的な契約額が増大する可能性があります。
i) Suppliers:資機材や原材料の Supplierとは長期契約により価格変動や調達のリスクが軽減できる可能性があります。
j) Purchasers:最終製品のPurchaserとは、オフテイク契約などの長期契約を結ぶことで、市場リスクを軽減できる可能性があります。
(*5)
コーポレート・ファイナンスは企業財務の総称でもあるが、本稿ではコーポレート・ファイナンスにおけるリコース・ローンを意味する。
(*6)
Special Purpose VehicleまたはSpecial Purpose Company
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