【コラム】(プロファイバンカーの視座)第150回 プロジェクトファイナンス超入門(14)

2024.06.27 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

これまで「プロジェクトファイナンスってなに?」というお話をしてきました。この問いに対する答えは、答える人によって多少異なると思います。表現方法も異なると思います。しかし、プロジェクトファイナンスの本質(というとやや大袈裟ですが)をよく見極めてゆくと、これまで私がご説明してきた「プロジェクトファイナンスは事業向け融資である」「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンである」と捉えて頂いて問題ないと思います。プロジェクトファイナンスを手短に説明するには、このような説明でよろしいかと思います。

さて、「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンである」という点に関連して、もう少し説明をしておきたいことがあります。説明しておきたい点は3点あります。

1点目は「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンである」とは言うものの、通常レンダーは事業の建造物(例えば風力発電施設)が完工するまでの間、スポンサー(出資者)の債務保証を徴求するということ。従って、完工するまではノンリコース・ローンにはなりません。ノンリコース・ローンになるのは、建造物が完成した完工後です。通常完工すると、スポンサー(出資者)の差し入れていた債務保証が終了します。債務保証が終了することにより、プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンになります。つまり、プロジェクトファイナンスは初めからノンリコース・ローンなのではなく、通常は完工後にノンリコース・ローンになります。そうは言うものの、完工するまでの建設期間は通常数年程度です。陸上風力発電所なら3年程度でしょうか。完工後に返済が開始しますが、返済期間が仮に20年あるとすれば、その20年の間はすべてノンリコース・ローンです。プロジェクトファイナンスがノンリコース・ローンではない期間(つまり建設期間)はわずか数年程度なのに対して、ノンリコース・ローンである期間(つまり返済期間)は例えば20年あるわけです。ノンリコース・ローンである期間は圧倒的に長いわけですから、「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンである」という説明は間違いではありません(注)

2点目は、ノンリコース・ローンはプロジェクトファイナンスだけではないという点です。プロジェクトファイナンスがノンリコース・ローンであることは疑いの余地がありません(上記のご説明の通り、建設期間を除きますが)。しかし、さまざまなローンの中にはプロジェクトファイナンスではなくても、ノンリコース・ローンであるものが存在します。まず、プロジェクトファイナンスとノンリコース・ローンの関係はどうなっているのか、ということを下記に図示しておきたいと思います。

【プロジェクトファイナンスとノンリコース・ローンの関係】

この図から明らかなように、プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンですが、ノンリコース・ローンのすべてがプロジェクトファイナンスというわけではありません。ノンリコース・ローンの一部がプロジェクトファイナンスであるということです。さて、そうすると、みなさんは次のような疑問をお持ちになるかもしれませんね。「ノンリコース・ローンではあるけれど、プロジェクトファイナンスではないものって、どんなローンですか?」と。上の図でいうと、灰色の部分に該当するローンのことですね。具体例の1つは、不動産向けのノンリコース・ローンです。商業ビルの開発業者がSPC(特別目的会社)を設立して商業ビルの建設・運営事業を行うことがあります。自社所有の土地と竣工後の商業ビルをレンダーのために担保差し入れします。さらにテナントとの賃貸契約書ならびにテナントへの家賃請求権も担保に入れます。そして、SPCが借主になります。開発業者(SPCの親会社)はSPCの借入金についてレンダーに債務保証を行いません。こういうスキームで実施する不動産向けローンは開発業者(SPCの親会社)にとってノンリコース・ローンになります。もう一つ個人向けローンの分野で具体例を挙げれば、最近注目されているリバース・モーゲージが該当すると思います。高齢者の方が自宅を担保に老後の生活資金を借りるというのが、このリバース・モーゲージです。高齢者の借主がお亡くなりになると、レンダーは担保となっていた自宅を売却処分して融資金の返済に充当します。このリバース・モーゲージについて誰も債務保証を行う保証人はおりませんので、リバース・モーゲージはノンリコース・ローンと言えます。

最後に3点目です。3点目はプロジェクトファイナンスを利用する企業の利用理由です。「なぜプロジェクトファイナンスを利用するのか」と問えば、その回答のほとんどが「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンだから」という点です。つまり、プロジェクトファイナンスの利用理由のうち、最多かつ最大の理由が「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンだから」ということです。念のため、プロジェクトファイナンスを利用する他の理由も見ておきますと、次のような理由がよく挙げられます。「多額で長期の借入が可能だから」「スポンサーの信用格付の維持ができるから」「複数スポンサーによる共同事業だから」 こういった理由もありますが、理由の重さという点ではやはり「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンだから」という理由が大きいです。

注)
「プロジェクトファイナンスは事業の建造物の完工までノンリコース・ローンではなく完工後にノンリコース・ローンになる」というお話は実は第142回のコラムでも一度言及しております。第142回のコラムでは図解もしておりますので、ご参照ください。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashKelly Reprezaが撮影した写真

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