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【コラム】第16回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(16)

2020.04.28 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回も前回に続き、NEXIと民間マーケットの違いについて考えてみたい。

3) 柔軟な保険設計

NEXIは貿易保険法に基づいて保険の引受を行っているため、保険約款の変更、新商品の開発などにおいて貿易保険法の改正が必要になることがある。また、法律の改正を伴わない場合でも、公平性の観点等から、保険料、保険料算出方法や商品設計の自由度が限られている(公平性の観点は政府の貿易保険制度には必要であり、顧客にとっても透明性を確保する点から重要ではあるのだが)。一方、民間保険会社は、それらに関して法律に縛られることはなく、自由に決めることができる。ここでは、保険料、保険料算出方法、リスクの選択について議論してみたい。

① 保険料

NEXIにはタリフがあり、保険料の柔軟性がない。NEXIのウェブサイトには、NEXIのほぼ全保険商品に関して、保険料が計算できる保険料計算シミュレーションというツールがあり、これに必要項目を入力すれば、保険料を算出することができる(但し、特に貿易一般保険の保険料を出す為には、NEXIの商品を相応に把握していないと入力自体に戸惑うかもしれない)。このツールを使えば、誰でも保険料の計算が出来るので、顧客にとってみると便利かもしれないが、裏を返せば、保険料に関しての交渉が出来ないということである。一方、民間保険会社にはタリフはないので、保険料を保険会社の引受方針、マーケットの状況や顧客との関係性等において自由に決めることができる。但し、保険料を自由に決めることが出来ることと、保険料が安いことは必ずしもリンクをしないので、常にNEXIの保険料との比較が重要になってくる。

② 保険料算出方法

特に中長期のリスク(大型プロジェクトの不払リスクをカバーするような案件)では、保険料の算出方法もNEXIと民間保険会社に違いが見られる。NEXIでは、契約金額に料率をかけて保険料を算出するのに対して、民間保険会社では一般的に実際のリスクの金額に対して料率かけて保険料を算出する。たとえば、契約金額1200億円で期間が5年のインフラ設備建設契約だとしよう。発注者からの支払条件は、毎月の出来高を3か月後に支払うものだと仮定する(実際は前払金がある場合がほとんどだと思うが、ここでは便宜上無視する)。NEXIの場合は、契約金額である1200億円に料率をかけ、保険料を出すのに対して、民間保険会社の場合は、相手が支払遅延を起こした時にいくら損害がでるか、という基準で保険の支払限度額を決める。現実的ではないが、仮に、毎月の出来高が5年に亘り等分に行われたとすると、毎月20億円となる。ある月の出来高に対しての支払いが行われるのは3か月後なので、その間3か月分の工事が行われることになる。従って、この工事において見込まれる最大の損失額は80億円となる。民間保険会社ではこの80億円に料率をかけて保険料を算出する。料率自体はNEXIの方が安いかもしれないが、基準となる金額が12.5倍であれば、さすがに保険料自体は民間保険会社の方が安くなるであろう。

③ リスクの選択

ここでは2つの例を紹介したい。

一つ目の例は、短期の信用保険でよく見られる保険契約者の取引先を包括的に持つカバーである。NEXIでも、組合包括、企業包括などの包括保険はあるが、民間保険会社の場合は、包括の定義が広い。たとえば、売上高上位50社だけをカバーするケース、売上高上位10社だけを除いて残りの取引先を包括的にカバーするケース、ある部署(或いはその部の下にある課)の取引先だけをカバーするケース、または商品を限定してその商品の取引先だけをカバーするケースなどはNEXIでは包括保険では対応できない。また、民間保険会社の包括保険の場合は、年間累積免責金額(年間の累計損害が〇〇円を超えた以降の損害をカバーすること)を設定して、保険契約者の経営に影響を及ぼすような大きな損害だけをカバーすることが可能だが(保険料も年間累積免責金額をつけると安くなる)、NEXIではこのようなストラクチャーに対応できない。

また二つ目の例は、民間保険会社はリスクを限定してカバーすることができることだ。たとえば、ある商社が海外の取引先に商品を販売するにあたり、相手先国の外貨準備高が少ないので、為替交換のリスクだけをカバーしたいというニーズがあったとする。NEXIでは非常危険がセットになっているので、為替交換リスクだけに限定したカバーを提供することはできないが、民間保険会社はそれが可能である。そうすることにより、保険料も相応にセーブすることができる。


上記に加えて、民間保険会社は保険契約者のニーズに合わせて保険約款を変更することが可能であり、保険引受にかかる時間もNEXIと比べて格段に速い場合が多い。特に対象となっている契約が大きくなればなるほど、NEXIでは現地視察、環境審査や承認プロセスなどに時間がかかり、保険の申し込みをしてから保険が有効になるまでに、6か月から1年以上かかる案件もあると聞く。このようなケースで民間保険会社が選択肢になると思うが、一方、お客様によっては、NEXIの引受審査が終われば、NEXIに付保したいという要望もある。そのような場合には、NEXIの引受審査が終わるまで、民間保険会社の保険を付保し、その後NEXIに切り替えるという方法もある。

次回もNEXIと民間マーケットの違いについて考えてみたい。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Shunya Koide on Unsplash

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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