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【コラム】第15回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(15)

2020.04.14 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


新型コロナウイルスが猛威を振るいつつある現状、在宅勤務をされている読者も多いと思う。読者の興味がありそうなNEXIと民間マーケットの違いを2回に亘り、取り上げてみたい。筆者自身、民間マーケットに身をおき、長年NEXIと比べた民間の優位性は何かと考えてきたため、民間の立場からの解説になりがちであることをご容赦願いたい。

1) 民間保険会社は日本の国益(Japan Interest)がない取引にも付保可能

NEXIは、日本のExport Credit Agency(現状は政府が100%出資する株式会社)であることから、日本の会社の貿易、投融資を促進する役割を担っている。この点において、日本の会社が携わっている取引であっても、日本の国益にならないと判断されれば、NEXIの保険を付保することはできない。日本の会社が海外の取引先に物を販売する場合は、販売代金を日本の会社が受け取ることになり、また、海外に子会社を設立する場合は、まさに外国に日本のフットプリントを築くことになるので、明らかに国益があると言える。問題となるのは融資である。たとえば、東南アジアの政府主導の天然ガス開発プロジェクトに融資をする金融機関があったとする。この天然ガスの全量或いは相応の量が日本に輸入されるのであれば、このプロジェクトには日本の国益があり、NEXIの保険を付保することが可能である。しかしながら、日本にはほとんど輸入されず、多くが他の国(たとえば中国など)に輸出されるとなると、日本の国益がなくなるため、この金融機関が保険を必要とする場合は、民間の保険会社をあたるしかなくなる。どのようなプロジェクトを国益があると認められるかどうかだが、数年前に面白い事例があった。日本の商社がある南アジアの国に所在する企業がかつお節工場を建設する為の資金を融資する、という案件があった。この商社は最初にNEXIに相談に行ったが、日本の国益がないということで、引受を断られたという。かつお節は全量日本に輸入されるにも関わらず、日本の国益とみなされないということだった。天然ガスなどの資源は日本の国益に適うが、かつお節は日本の国益に見合わない、ということなのだろうか。

2) 民間保険会社はOECDガイドラインに縛られない

OECDガイドラインは、正式名称は「OECD信用輸出アレンジメント」である。NEXIによれば、これは、輸出者間における競争は輸出される貨物及びサービスの質及び価格により行われるとの考えのもと、「公的支持」のある輸出信用等の条件における過当競争を回避するために、OECDに加盟している国のExport Credit Agency間(日本ではNEXIとJBIC)の輸出信用の秩序ある供与のための包括的な取り決めのことである。(*)この中で取り決められている項目はいくつかあるが、民間保険会社の優位性が出てくるのが頭金と元利金の支払条件である。まず、頭金については15%以上が求められている。たとえばバイヤークレジット(日本の会社が輸出する品物を海外の買い手(バイヤー)が買う為の資金を、日本在の金融機関が融資する取引)において、バイヤーから頭金部分の融資も求められることがある。そうなると、頭金がそのバイヤーから払われているように見えるが、実態は融資で賄っていることになり、本来、手持ちの資金で対応すべき頭金ではなくなってしまう。その場合のカバーはNEXIではなく、民間の保険会社が対応することになる。また、元利金の支払条件については、例外措置があるものの、2年以上の契約に関しては6か月の均等払いとなっている。貿易にしても融資にしても、たとえば3年契約で代金または融資金を3年後一括払いという条件はそんなに珍しくないと言える。これらのケースでは、民間の保険会社で対応することになる。

(*)https://www.nexi.go.jp/glossary/detail/002791.html

3) 民間保険会社は既存契約への付保が可能

NEXIでは海外投資保険を除いて、既存契約への付保は原則として出来ない。たとえば、物・サービスを輸出した時、または融資を実行した時には、リスクを感じなかったが、その後、取引先所在国のカントリーリスクが悪化したので保険が必要になった、などの場合は、民間で引受をしてもらう必要がある(取引先の信用リスクが悪化したので保険をかけたいというのは、保険事故につながる可能性がある事象をすでに知っていて保険を購入することになるため告知義務違反という理由で、その保険契約は保険会社から解除することができる)。ただ、事例として多いのは、既存の融資契約を他の金融機関に売却し、その金融機関が保険を必要とする場合だ。このようなケースでは、当初の金融機関が保険を必要でなかったとしても、その融資契約を購入した金融機関が社内のリスク管理上等により保険が必要になれば、民間の保険会社から調達することになる。

次回も、NEXIと民間マーケットの違いについて考察したい。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Marcelo Cidrack on Unsplash

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