【講演録】橋梁のセルフメンテナンス「 ふくしまモデル」の取組み(後編)

2020.03.18 ナレッジ

ナレッジパートナー:株式会社アイ・エス・エス


「住民主導型」以外の取り組み

 これまで紹介してきたものは住民が主体となった「住民主導型」の取り組みでした。ここからは、住民主導型以外の取り組みについて紹介します。まずは「学生主導型」の取り組みです。

 舞台となっているのは、宮城県の4自治体です。ここでは、地域の高校で研究課題の一環として取り組まれています。地図に示した大和町・大衡村・大郷町・富谷市は、旧黒川群の4自治体です。この取り組みを行っている、黒川高校は旧黒川群の中心部に位置します。黒川高校の中でも、工学科地域貢献班の3年生が研究課題として取り組んでいます。研究課題とは、必修授業で班ごとに1年を通して研究や製作を行うものです。2014~2015年度に黒川高校周辺の地域の橋梁に対して清掃活動を行っていたようで、担当の先生が福島県平田村での取り組みを知ってくださり、2016年度にはチェックシートを課題研究の教材として使用することとなりました。

 高校生が住民参加型橋梁点検の主体となることで、実際に橋を見て部材や構造だけでなく維持管理の重要性や楽しさを学ぶことに繋がり、点検・清掃活動を通じて地元への貢献を行い学生自身の将来を考える機会となっているようです。3年生の1年間で、点検の計画を立て、勉強会を行い、点検・清掃活動の実施、橋マップや発表資料の作成を行い、最終的に2月に課題研究の発表を行っています。勉強会の内容を紹介しますと、実務者、役場担当者、学生が参加して、地域の橋梁に足を運び対象市町村の橋梁維持管理の状況を学びます。点検も行うため、点検時の安全講習や点検で注意してみるべきポイントなどのレクチャーを受けるだけでなく、打音検査や非破壊点検の体験など行っています。

 2016年の大和町からスタートしたこの取り組みも、2019年で4自治体を1周します。例年取り組みに対する感想をアンケートしていますが、「楽しい」や「達成感を感じる」などプラスの感情で回答している学生が非常に多く、中には、「維持管理の楽しさをしり、こういった仕事をしたいと思い、橋梁点検関係の企業に就職した」という学生まで。学生主体の活動は、学校や先生の熱量にもよりますが授業の一環として継続性が高い活動だな、と思っています。

 福島県郡山市の「インハウスエンジニア主導型」の取り組みでは、市の職員が日常点検に先ほどみなさんに見ていただいたチェックシートを取り入れています。市の職員が車で市内の道路を巡回し、対象橋梁で車を降りて点検を行う際にチェックシートを活用しています。その際、路面滞水の原因となる排水桝の土砂撤去や橋梁前後の舗装の凹凸、ポットホールなどの修復を行っているようです。

 2017年度の点検結果では、郡山市が管理する807橋のうち、268橋に対してチェックシートを用いて点検を行いましたが、その約90%の橋梁で何らかの損傷が認められました。チェックシートを用いた日常点検は、損傷の早期発見に有用であるといえます。 またインハウスエンジニアによる平均的な点検時間は6分程度で、非常に短時間で点検を実施することが可能です。これはパトロールによる日常点検に有用であるといえます。

 最後に、石川県津幡町で取り組まれている、高専の学生と県内のコンクリート診断士と地域住民による、「産官学民協働型」の紹介です。その名も「橋梁きずなプロジェクト」ですが、11月末3橋程度を対象に、石川高専の卒業研究として、2018年度からチェックシートを用いた点検・清掃活動を実施しています。大きな特徴は、学生がその年の11月までに数回、高専周辺の橋梁の点検を実施し、当日は学生とコンクリート診断士が、点検・清掃活動のノウハウを住民へレクチャーしていることです。プロジェクト参加者にアンケートを行ったところ、住民からは「点検に参加したことで、日頃の点検・監視が大切だと痛感した。今後も関心を持っていきたい。」といった感想が挙がり、コンクリート診断士からは「参加者も多く、積極的な質問もあってとても良い取り組みだと思った。継続を期待する。」といった感想が挙げられました。コンクリート診断士と住民という、中々交わる機会のないひとが一緒になって活動に取り組んでいるので今後の展開も是非期待したいな、と思っています。

 このように、チェックシートを活用したセルフメンテナンスは地図に示したようにじわじわと全国に展開しつつあります。

 これまでお話してきた住民参加型橋梁点検は様々な活動によって下支えされています。次にザッとではありますがそれら下支えする活動についていくつかご紹介いたします。

次ページ 住民参加型の橋梁点検活動を下支えする活動とは

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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