【講演録】橋梁のセルフメンテナンス「 ふくしまモデル」の取組み(前編)

2020.03.04 ナレッジ

ナレッジパートナー:株式会社アイ・エス・エス


住民参加型橋梁点検の仕組み

 では、住民参加型橋梁点検の仕組みをご紹介いたします。この取り組みは3つのステップを繰り返します。

①オリジナルの橋梁点検チェックシート(以下、「チェックシート」)を使った日常点検
②Google Mapに先ほどの点検結果が落とし込まれた地図、橋マップで点検結果を確認
③点検結果で、清掃の必要性が確認された橋梁を地域のみなさまのご協力で清掃する

こういったものです。 ここで出てくるのが、資料で別添したカラフルなチェックシートです。ちなみに、みんなで守る。橋のメンテナンスネット(http://bridge-maintenance.net/)からダウンロードすることもできます。

 このチェックシートの大きな特徴をいくつか紹介します。まず、住民のみなさまにとって、橋の構造は見慣れないものです。もちろん、高欄や地覆なんて言葉を聞いたことのない人もいます。そんな方でも、実物の橋を見ながら部材の名称が分かるように、イラストで分かり易くする工夫をしています。色別の表では、それぞれの部材に対して、どんな損傷があるのかをチェックするようになっています。例えば、高欄を点検したときに、変形している部分があるのか、ある場合、それは部分的なのか広範囲なのか。錆がある場合、部分的なのか広範囲なのか、といった要領でチェックしていきます。損傷の程度は、あるなしで直感的に判断することが可能で、住民でもチェックできるような工夫をしています。

 このチェックシートですが、片面は橋の構造が描かれたイラストと、カラフルな表。反対の面は色ごとに分かれた損傷例の写真を載せています。お気づきかと思いますが、両面の色がリンクするようになっています。チェックする項目の損傷については、写真の損傷例を見ながら判断できるように工夫をしています。  チェックシートを見ながら点検をしていただくわけですが、点検している中で、橋そのものが大きく歪んでいたり、橋に車がぶつかったような破損や変形が見られるなど、異常を感じた場合に通報してもらえるよう、通報先を大きく記載しています。

 この点検や清掃活動ですが、現在はご協力いただく住民のみなさまに「安全第一で気を付けて取り組んでください」とお願いして取り組んでいます。そのため、点検・清掃時にみなさまに守ってもらいたい約束事をいくつかチェックシートにも記載しています。約束事を周知するためのポスターなんかを学生に作成してもらったこともありました。

 次に、チェックシートを片手に点検していただいた結果を点検してくださった住民のみなさまも自由に確認することができる橋マップを紹介します。これまで点検結果というと、とてもCloseな情報だったかと思います。専門家でないと、どう見たらいいのか分からないような表にびっしりと文字が書かれていたり、どこで情報を見ることができるのか分からないことが多いですが、この取り組みは住民のみなさま自身が点検した結果を橋マップ上で見える化しています。

 先ほどのチェックシートから、高欄の錆、排水桝周辺の土砂や雑草に関する項目を5項目選定し、損傷のありなしで点数を付けています。点数の付け方は後ほど簡単に説明しますが・・・橋梁の劣化は水の作用する箇所から進みます。水が溜まることで、パラペットや躯体、桁端部の劣化に繋がることになります。ここで挙げた項目にある、土砂や雑草を取り除くことで橋梁の排水機能を確保するのです。  さて、橋マップの実物を見ていただこうと思ってスマホの画面を用意しました。橋マップ・ひらた (https://www.google.com/maps/d/u/0/viewer?mid=1DkojzvdFaoic75p7CHWTs64FFdU&ll=37.21692229501756%2C140.56502563769527&z=14)にアクセスするためのQRコードを載せたので是非スマホをお持ちの方はトライしてみてください。こんな感じでアクセスしてもらうと・・・Google Mapのアプリで橋マップを見ることができます。

 橋マップでプロットされているピンの色は、橋の掃除の必要性を示したものです。簡単に言うと、青ければ橋の清掃は不要で、反対に赤ければ清掃が必要といった感じです。この青から赤までの分類は、先ほどのチェックシートで点検された結果を点数化したもので決められていまして、ここで使っている指数を歯磨き指数と呼んでいます。橋の清掃を歯磨きに例えての名前です。

 歯磨き指数の考え方を紹介します。まず、錆や土砂・雑草に関する5項目の点検結果を1~3点で数値化します。損傷が広範囲にあれば3点、部分的にみられるなら2点、無ければ1点です。この点数を5項目分合算します。そうすると、最高で15点、最低でも5点になりますよね。  そこで、この点数を10点満点に換算します。5項目を合算した点数から、「5」を引いた値を、橋の歯磨き指数としています。2点ごとに青から赤までピンの色を分類しています。

 それぞれのピンが示す状態がどのような状態かというと、例えば歯磨き指数が1番小さい値の青となる場合、橋マップのコメント欄には「きれいに保たれています」と記載されており、清掃の必要性が低いことが分かります。一方で、歯磨き指数が最も大きな値となる赤の場合でも、「橋面上の土砂や雑草が多くある、地覆のコンクリートの劣化が目立つ」という状態です。気付いていただけたでしょうか、赤いピンであっても、地域住民が清掃を行うことで、赤の状態を脱することができるのです。橋の危険度を示す赤ではないのです。橋マップで確認できる情報は、あくまで橋を綺麗にするための清掃の必要性であって、地域住民の不安を煽るものではない、というのが重要なポイントです。では最後に、清掃活動の様子を紹介します。

 清掃をお願いしているのは安全に誰でも取り組むことのできる橋面です。チェックシートでいうと、このピンクが示す項目が該当します。この写真では、ご近所にお住まいのおじいさまが自前のスコップで排水桝やその周りの土砂を清掃しています。活動主体は「住民」ですが、それぞれの地域によって活動主体は異なります。住民の主体的な活動が盛んな地域もあれば、学生の課外活動が活発な地域もあります。さまざまな活動主体によって取り組みは広がっていますが、ふくしまモデルが構築されるに至った原点に一度立ち戻ってお話を進めます。

(後編につづく)

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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