【講演録】橋梁のセルフメンテナンス「 ふくしまモデル」の取組み(前編)

2020.03.04 ナレッジ

ナレッジパートナー:株式会社アイ・エス・エス


■リハテック研究会@山口大学
■タイトル:『セルフメンテナンス ふくしまモデル』の取組み

■開催日:2019年12月13日(金)


株式会社アイ・エス・エス 平野 綾子氏(以下、「平野」): はじめまして。株式会社アイ・エス・エスの平野と申します。今日はこういった機会をいただき、大変うれしく思っております。タイトルにあります、「セルフメンテナス ふくしまモデル」(以下、「ふくしまモデル」)は、福島県にキャンパスを構える、日本大学工学部コンクリート工学研究室で進めている住民参加型橋梁点検についての研究です。仕組みが構築され、成果も蓄積されてきたことから、更なる展開にコマを進めるべく、今年から弊社と共同研究という形で進めさせていただいております。

 本日は、このふくしまモデルのイロハについて紹介をさせていただきます。いち企業である弊社がこの取り組みを行うに至った経緯、この取り組みの研究者であるキーマンのご紹介、昨今の維持管理事情に触れたうえで、ふくしまモデルの研究について話を進めていこうと思います。

 ふくしまモデルの話では、要となる「住民参加型橋梁点検」の仕組みやふくしまモデルがどのような経緯で構築に至ったのか紹介したいと思います。更には、実際に行われている具体的な取り組みと、この活動を下支えする活動を紹介させていただき、今一定の成果が出ている新たなフェーズの話も少しお伝えしたいと思います。

これまでの経緯

 では早速はじめさせていただきます。(1)なにを目標に、企業が非営利活動に取り組んでいるのか、(2)核となる日大での研究のキーマンについて、(3)そもそも、住民参加型の橋梁点検がどんなものか。(1)から順にお話いたします。

(1)弊社が何の会社かといいますと、橋梁設計が主戦力の会社で、他にも建築の意匠・構造や、わたしが所属するインフラのマネジメントに関する事業も多数行っています。各地に展開しておりまして、ここから近いところですと、広島・福岡でそれぞれ橋梁の設計部隊がおります。では、なぜ橋梁の設計会社がこういった取り組みをしているかと言いますと・・・これまで弊社が取り組んできたことというと、左の図の青地で示すとおり①橋梁設計と、②橋梁のメンテナンス設計でした。NPO法人社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会とご縁があったこともきっかけのひとつとして、これまで作ってばかりきた橋梁を守っていく取り組みに乗り出す方針となったわけです。

 これは弊社の構想ですが、今はまだ、橋梁への関心・意識の醸成段階で、「社会貢献」として、土木学会やNPO、大学と連携して取り組んでいます。その後「学術研究」として、市民活動・協議の定量的価値の研究を行い、橋梁メンテナンス分野における新たな市場価値の創出を目指しています。長期的・計画的なインフラ維持管理の実現に向けて取り組みはじめたところです。

(2)冒頭にお伝えしたように、この取り組みは日本大学工学部コンクリート工学研究室で研究のひとつとして生まれ、現在まで取り組まれてきました。そこでご紹介したいのが、ご存じの方もおられるかと思いますが、浅野 和香奈さんです。日本大学工学部の客員研究員ですが、2019年の2月から弊社の社員として宮城県仙台市で勤務しております。生まれも育ちも仙台で、日本大学に入学後すぐに、福島県平田村で実施されていた住民と学生との協働活動「道づくり」に参加。大学4年生から現在までの5年弱かけて、住民参加型橋梁点検の研究に取り組んでいます。そして2018年5月には、「ふくしまモデルの構築と実践」というタイトルで第2回インフラメンテナンス大賞 国土交通大臣賞を受賞しました。10月には、土木広報大賞2019の教育・教材部門で優秀部門賞を受賞しています!

(3)この住民参加型橋梁点検がどのような点検なのか、概要をご説明いたします。セルフというと、「自分自身で」という意味を持ちますが、小学館の辞書によると「セルフメンテナンスとは、所有物や、自分自身の状態を自分で点検し、異常があれば修復して健全な状態を維持すること」とされています。ふくしまモデルでは「住民参加型橋梁点検とは、地域の橋を地域住民の所有物と考えて、その橋の利用者である地域住民や管理者らが日常的に点検し、簡易なメンテナンスを行うことにより、健全な状態を維持することである。」と定義しています。

 ふくしまモデルは住民参加型橋梁点検であり、具体的には以下の①および②を住民が主体となって実践しています。

①橋梁点検チェックシートを用いた日常点検を行い、橋マップというツールでその点検結果を確認する。
②確認した点検結果を踏まえて、橋梁の清掃活動を行う。

以降はこの①と②を繰り返し行う形でメンテナンスサイクルを回しています。

 福島で始まったこの住民参加によるインフラ維持管理を水平展開したい!ということで自治体へのアプローチや本日のような機会をいただいているというところでございます。本日は、この仕組みをより詳しくご紹介するわけですが、その前に一度振り返っておきたいことがございます。それは昨今の橋梁の維持管理事情です。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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