【寄稿】港湾法の一部改正 ー洋上風力発電事業の動向に着目してー

2019.12.28 ナレッジ

ナレッジパートナー:越元 瑞樹


2. 港湾法改正の背景

(1)  基地港湾の指定制度及び海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭を構成する行政財産の貸付け制度創設の背景

 平成31年4月1日に施行された海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)は、洋上風力発電事業等を一般海域において実施する際の一般海域の占用ルール等を定めている。政府は、現在再生可能エネルギーについて主力電源として位置付け、その中でも洋上風力発電については、陸上風力発電の適地が限定的であることから導入は不可欠な電源であり、洋上風力発電事業の導入促進策を講じていくとしており(2018年7月3日に閣議決定された第5次エネルギー基本計画参照)、これを受けて上記再エネ海域利用法が制定及び施行された。

 上記の洋上風力発電事業に関する一般海域の利用ルールの整備等に伴い、今後、一般海域における洋上風力発電事業の導入が促進される見込みであり、洋上風力発電設備の重厚長大な資機材を扱うための埠頭を長期・安定的に利用できる制度を整備する必要があること等が本改正法に基づく港湾法の改正の背景とされている。[*2]

 より具体的には、再エネ海域利用法上の一般海域における海洋再生可能エネルギー発電設備(再エネ海域利用法第2条第2項)並びに再生可能エネルギー源の利用に資する施設及び工作物(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「再エネ特措法」という。)第2条第4項)[*3] に関し、必要な人員・物資の輸送のための基地港湾を政府が指定し、基地港湾内の埠頭その他の港湾施設を発電事業者に貸し付ける制度を創設するものである(改正港湾法第2条の4)。[*4]

[*2]
再エネ海域利用法上、促進区域の指定の基準として、「発電設備の設置及び維持管理に必要な人員及び物資の輸送に関し当該区域と当該区域外の港湾とを一体的に利用することが可能であると認められること」という基準が設けられており、当該基準に適合することが必要とされ(再エネ海域利用法第8条第3号)、当該港湾の存在は、促進区域の指定の基準の一つとされている。加えて、また再エネ海域利用法上の公募占用指針には、「当該海洋再生可能エネルギー発電設備の設置及び維持管理に必要な人員及び物資の輸送に関し第二号に掲げる区域と一体的に利用される港湾」を記載することとされている(再エネ海域利用法第13条第2項第11号・「一般海域における占用公募制度の運用指針」2019年6月P7)。基地港湾の存在は、促進区域の指定及び公募占用指針に関して重要な点となってくると思われ、実際にも洋上風力促進ワーキンググループにおいて、基地となる港湾の確保及び整備が検討されている(洋上風力促進ワーキンググループ「(資料3)促進区域の指定について再度補足的にご議論いただきたい事項」2019年2月28日(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/003_03_00.pdf、2019年12月25日最終閲覧))。

[*3]
再エネ海域利用法上の一般海域における海洋再生可能エネルギー発電設備(再エネ海域利用法2条2項)に限定せず、再生可能エネルギー源の利用に資する施設及び工作物等(再エネ特措法2条4項)も対象とされており、再エネ海域利用法上の一般海域における洋上風力発電設備のみではなく、広く再エネ特措法第2条4項の再生可能エネルギー源、すなわち海域を問わず洋上風力発電設備一般が対象とされているようにも考えられる。一方、下記記載する通り、実際に基地港湾内の港湾施設の貸付けを受けることができる者は、港湾法第37条1項又は再エネ海域利用法第10条1項の許可を受けた者(いわゆる許可事業者)に限定されていることから、改正港湾法に基づき港湾施設内の埠頭の貸付けを受ける事業者は、一般海域又は港湾区域内で洋上風力発電事業を行う者に限られることになると考えられる。

[*4]
国土交通省「「港湾法の一部を改正する法律案」を閣議決定~洋上風力発電設備の設置等のための埠頭貸付制度の創設・国際基幹航路の維持・拡大に関する取組の強化~」2019年10月18日(http://www.mlit.go.jp/report/press/port01_hh_000213.html、2019年12月25日最終閲覧)


(2)  公募占用計画の認定期間の延長の背景

 上記の基地港湾の指定制度及び海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭を構成する行政財産の貸付け制度の創設のほか、港湾法第37条の6に基づく公募占用計画の認定期間についての改正も併せて行われた。

 2016年の港湾法改正時に、洋上風力発電事業者に対して一定の港湾区域の占用許可を与える「占用公募制度」が創設され(港湾法第37条の3)、当該公募占用計画に基づく占用期間は20年と定められた。この改正により1年から5年程度の条例に基づく占用許可よりも長期の港湾区域の占用を可能とする統一ルールが明確に定められた一方で、再エネ特措法上の事業計画認定に基づき20年の調達期間に渡り洋上風力発電事業を行う事業者にとっては建設期間等の期間を含めた事業期間全体をカバーする期間としては不足する状況にあった。

 本改正は、上記最長20年とされてきた認定期間を、さらに10年間延長し、最長30年とするものである(改正港湾法第37条の3第4項)。

 この点、再エネ海域利用法上の一般海域における公募占用計画の認定事業者は一般海域の最長30年の占用が可能とされているが(再エネ海域利用法第10条第4項)、背景としては、通常洋上風力発電の事業者は再エネ特措法上の事業計画認定に基づき20年間の調達期間に渡り洋上風力発電事業を計画することが多く、環境アセスメント(4~5年程度)、建設作業(2~3年程度)、事業実施(20年程度)[*5] 及び撤去(2年程度)の期間を合計した期間に少し余裕を持たせた30年間として設定されているものである [*6]。港湾法第37条の3第4項の認定期間についても上記一般海域における認定期間と同様の配慮がなされたものであると考えられる。

(「港湾法の一部を改正する法律案」の概要より 出典:国土交通省)

[*5] 洋上風力発電事業に関連して、25年の風車寿命をもつ風車も商品化されており、今後20年を超える商業運転期間が想定される場合には30年でも不足する可能性もあると思われる(「一般海域における占用公募制度の運用指針」2019年6月 7頁参照)。

[*6]
「一般海域における占用公募制度の運用指針」2019年6月 7頁

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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