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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第18回 プロジェクトカンパニーの収益計上 IFRIC第12号(サービス委譲契約)の場合

2019.10.06 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 前回第17回のコラムでは、2019年8月下旬に横浜で開催されたTICAD 7(第7回アフリカ開発会議)を振り返るとともに、プロジェクトカンパニー(=プロジェクトファイナンスの借入人)の財務諸表作成の実務のうち、ヘッジ会計について考察した。ポイントは、非有効と判定されたヘッジの公正価値の変動は、「PLを通す」(=包括利益の前の段階の純損益に影響を及ぼす)という点であった。なおIFRS 9(国際財務報告基準 第9号)Financial Instruments(金融商品)には、ヘッジ会計だけでなく、金融資産や金融負債に関する規定も含まれており、後日再登場する見込みである。

 今回は第14回のコラムで言及したIFRIC(IFRS Interpretations Committee、IFRS解釈指針委員会、イフリックと発音する)のうち、BOT案件(詳細は後述)に適用されるIFRIC 12の概要について考察する。第14回コラムの最終パラグラフで、「プロジェクトの性質、適用する会計基準・解釈指針によっては、事業開始前の工事期間中から収益(売上)が計上されるという、伝統的な会計基準では容易には理解しがたい事象も起り得る」と記載したのが、まさにこれに該当する。

 IFRIC 12 (IFRIC解釈指針 第12号)Service Concession Arrangementsは「サービス委譲契約」または「サービス譲与契約」と訳されるのが一般的である。Concession(コンセッション)とは、政府等の公的機関が、空港、道路、電力供給、刑務所等の公共インフラの所有権を維持したまま、事業・運営・開発などの運営権を一定期間、民間事業者へ売却することを指し、PFI(Private Finance Initiative)やPPP(Public Private Partnership)の一種である。内閣府のウェブサイト(URL:https://www8.cao.go.jp/pfi/concession/concession_index.html)では、コンセッション事業を「公共施設等運営権制度を活用したPFI事業」と記載している。

 IFRIC第12号の範囲に含まれる典型的な「公共から民間」への契約に、BOT(Build Operate Transfer)契約がある。BOTとは、民間事業者が対象施設を建設(Build)し、建設完了後は対象資産を所有したまま運営(Operate)し、事業期間終了後に対象資産の所有権を公共機関等に譲渡(Transfer)する方式である。対象となる主な公共施設には、道路、橋、トンネル、刑務所、病院、空港、配水施設、発電施設等があり、営業者には、事業期間中、そのサービスに対する対価が支払われる。ちなみに筆者が現在CFOを務めている某新興国におけるIPP(独立発電事業)プロジェクトもBOT方式である。

 IFRIC第12号には主に二つの異なる会計モデルがある。一つは金融資産モデルで、もう一つは無形資産モデルである。金融資産モデルが適用されるのは、営業者が委譲者から現金または別の金融資産を受け取る無条件の契約上の権利を有している場合で、具体例としては、長期の売電契約(Power Purchase Agreement、PPA)や売水契約(Water Purchase Agreement、WPA)に基づく売電・売水事業があげられる。一方で無形資産モデルが適用されるのは、営業者が公共施設の利用者から代金を徴収する権利を付与されている場合で、具体例としては、有料道路や有料トンネルの運営(=道路やトンネルの利用実績によって収入が変動)があげられる。

 金融資産モデルの場合、施設の建設に関する収益および費用は、公正価値により工事収益を認識する。但しEPCコントラクターとの間で、いわゆるFixed Price Full Turn KeyベースのEPC契約を締結しており、営業者として直接建設リスクを取っていないと判断出来る等の場合においては、工事収益は認識しないことがある。一方金融収益は、工事収益を認識する/しないに関わらず、建設期間中から金融資産に実効金利法を用いて認識される。概念だけだとイメージがわきにくいので、単純化した具体例を見てみよう。

 第10回のコラム(エクイティIRRの概要と限界例(1))で取り上げた、仮想のインフラプロジェクトA(総工費300、建設期間3年(2019年から2021年まで毎年100ずつ支出)、事業期間は15年で、施設の建設完了後の事業期間のプロジェクトからのキャッシュフローは毎年40)に再登場願おう。第10回コラムの表1は次のようなものであった。

 建設期間中の支出が設備投資額しかなく、金融資産の実効金利にプロジェクトIRRを採用すると仮定すると、建設期間中の金融資産および金融収益は以下のようになる(単純化のため金融収益にかかる税効果は無視する=金融収益全額が翌年の金融資産残高に加算されると仮定)。

 この例のように、建設期間中=事業運営開始前で、実際の現金収入は発生しておらず、また工事収益を認識しない場合であっても、建設期間中に金融資産をベースにした金融収益が計上される。「PL(特に純損益)重視」の投資家にとっては、施設の建設終了=事業開始を待たずに、建設開始時点から会計上の収益が前倒しで計上されるので、望ましいと言えるかもしれないが、キャッシュベースの(エクイティ)IRR重視の投資家にとっては、単にわかりにくいだけと言えるかもしれない。

 以上、IFRIC第12号(サービス委譲契約)に基づく金融収益計上の事例について考察した。なおIFRIC第12号の条文自体には、原理原則しか記載されていないため、実効金利の設定等を含め、プロジェクトカンパニーにおける実務では、監査法人との綿密なすり合わせが必要となる。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

*アイキャッチ Photo by Scott Blake on Unsplash

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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