【コラム】(プロファイバンカーの視座)第12回 新興国のパートナー(2)

2018.09.27 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


新興国の地元企業が「出資金拠出能力」も「完工までの債務保証能力」も不十分ではないかとプロジェクトファイナンスレンダーから指摘された場合の対処策はいくつかある。誰もが思い付くであろう対処策は銀行のLC(Letter of Credit)を用意することである。銀行LCとは銀行による保証書である。万が一当該地元企業が出資金を拠出できなかった場合には銀行が拠出するとした保証書である。

銀行LCの発行は地元企業がふだん取引をしている銀行に依頼するのが通常である。銀行から見れば、当該企業が出資金を拠出できない場合に代わって資金を出すことを約束するわけであるから、当該企業の信用リスクを取ることになる。ふだん取引をしていない銀行にはなかなか担うのが難しい役割である。

ところで、プロジェクトファイナンスレンダーは、銀行LCの発行という対処策について無条件で応諾するわけではない点に注意する必要がある。どういうことかというと、LC発行銀行の信用格付けに条件を設けている。通常プロジェクトファイナンスレンダーが求める銀行LC発行銀行の信用格付け条件はシングルA以上である。つまり、信用格付けシングルA以上の銀行が発行したLCでなければ受け付けない。

さて、そうすると、新興国の地元企業は信用格付けシングルA以上の銀行が発行したLCを用意できるのかという新たな問題が生じる。銀行LCの発行は地元企業がふだん取引をしている銀行に依頼するのが通常であると先述した。言い換えると、地元企業はふだん信用格付けシングルA以上の銀行と取引しているのであろうか。これが新興国の企業を共同出資者に招き、プロジェクトファイナンスを利用しようとしたときにたびたび逢着する難問のひとつである。

新興国の地元企業がふだん取引している銀行はおそらく同国内の銀行ではないだろうか。新興国の国内の銀行に信用格付けシングルA以上の銀行は存在するのであろうか。ここで銀行の信用格付け一般に適用される「ソブリン・シーリング(Sovereign Ceiling)」という考え方を押さえておきたい。「ソブリン・シーリング」とは、国の信用格付けが上限となるという考え方である。つまり、銀行の信用格付けとの関係では、銀行の信用格付けはその銀行本店の所在する国の信用格付けを超えることはないということを意味する。銀行の信用格付けは一般に「ソブリン・シーリング」の制約を受けていると言っていい。

そうすると、「新興国の国内の銀行に信用格付けシングルA以上の銀行はあるのか」という問いに対しては、「その新興国の国としての信用格付けがシングルA以上であるならば有り得る」という回答になる。しかし、この回答は甚だ不可解であろう。なぜなら、国の信用格付けがシングルA以上になっているのであれば、もはやその国は新興国ではなかろう。新興国という以上、その国の信用格付けは通常シングルA未満ではないのか。その通りである。

話を元に戻す。要するに、新興国の地元企業がふだん取引をしている国内銀行によるLC発行ではダメだということである。なぜなら、新興国の国内銀行はシングルA以上の信用格付けを持っていないからである。新興国の地元企業がふだん欧米や日本などの先進国の銀行と取引をしていれば、それらの銀行にLCを発行してもらえば良い。欧米や日本の主要銀行なら信用格付けシングルA以上である。しかし、欧米や日本の銀行とふだんから取引をしている新興国企業というのは実際のところ非常に限られる。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Frida Aguilar Estrada on Unsplash  

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