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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第4回

2017.07.20 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


3-1-1 輸出金融(バイヤーズ・クレジット)の具体例

 さて、具体例を挙げながら、日本の輸出金融の特徴を見てゆきたい。国際協力銀行と日本貿易保険が、海外の輸入者を借主とする輸出金融の典型例バイヤーズ・クレジットを行う場合を採り上げてみる。例えば、新興国の国営電力会社に対して日本の商社・メーカー連合が火力発電所のEPC契約を受注した事例を見てみよう。EPC契約受注額は500億円だとしよう。そうすると、火力発電所向けなので輸出金融の融資金額はその85%までの金額つまり425億円まで可能である[*18]。火力発電所向けなので返済期間は最長12年まで可能である[*19]

[*18] 前出「2.1 OECDガイドライン 2-1-2融資条件」を参照。なお、輸出金融の金額算出には輸出先国内での資材調達額の30%までを加算できるルールもあるが、本事例では単純化のため省略する。
[*19] 前出「2.1 OECDガイドライン 2-1-2融資条件」を参照。

 日本の輸出金融の特徴が見られるのは、輸出金融425億円の融資方法である。三位一体で国際協力銀行、日本貿易保険、民間銀行が協働するとは具体的にどういうことか。日本の輸出金融ではこの425億円の融資のうち、60%を国際協力銀行が直接融資を行い、40%を日本貿易保険が供与する保険の下、民間銀行が融資を行う。なお、60%と40%の割合は不変ではなく、車両、重機、船舶向けの輸出金融の場合国際協力銀行の直接融資が50%、日本貿易保険・民間銀行の部分が50%になるなどの例外がある。

 本事例では日本円での輸出金融を想定して例示してきたが、米ドルやユーロで輸出金融が組成されることもある。さらに一案件において複数通貨で輸出金融が組成されることもある。具体的には、例えば日本円の部分と米ドルの部分が混成するようなケースである。

 また日本貿易保険が民間銀行のために供与する保険であるが、これは信用リスクをカバーする信用危険の保険とカントリーリスクをカバーする非常危険の保険とから成る。信用危険の保険のカバー率は90%から95%程度、非常危険の保険のカバー率は97.5%から100%程度となることが多い。両者のカバー率を100%としないことにより、民間銀行のモラル・ハザードを避ける狙いがある。

 輸出金融の融資契約書の貸主となるのは国際協力銀行と民間銀行で[*20]、借主は本事例では新興国の国営電力会社である。日本貿易保険は融資契約書の当事者にはならない。日本貿易保険は民間銀行との間で別途保険契約を結び[*21]、日本貿易保険が保険者、民間銀行が被保険者となる。輸出金融の融資契約書ひな型は、プロジェクトファイナンスの場合作り込みが必要であるが、本事例のように企業向け(国営電力会社向け)の輸出金融であれば国際協力銀行の持っているひな型を使用するのが普通である。本事例の輸出金融の概要をまとめると次の通りである。

[*20] 実際には輸出金融(バイヤーズ・クレジット)の融資契約書の貸主となるのは国際協力銀行だけで、民間銀行は国際協力銀行との別途約定で同融資契約書上の貸主に加わる形をとっている。これは慣行のためだと思われる。
[*21] 実際には日本貿易保険と民間銀行との間には保険契約に関わるマスター・アグリーメントが存在する。このマスター・アグリーメントに基づき、個別案件毎の保険契約が締結される。

【新興国の火力発電所向け輸出金融の例】

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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