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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第1回

2017.06.30 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 このように新興国における輸入代替事業は外貨、雇用、技術移転などの諸点で効果的であり、かつ経済成長の過程で自ずと出てくる事業であるが、当該事業に投資や融資をする立場から見ると、リスクや課題がないわけではない。重要なリスクや課題として、次の2点を指摘しておきたい。

1)当該国の経済成長次第 – 1点目は輸入代替であるために、事業の中長期的な成否は当該国の経済成長にかかっているという点である。一旦建設した石油精製プラントは、業績が思わしくないからといって解体して他国に持ってゆくことなど到底できない。つまり、同国内の需要の伸長に一途に期待する以外にない。万が一、同国内の経済状況に異変が起きガソリン等の石油製品の需要が振るわなくなると、当該事業にとっては致命的となる。80年代後半から90年代にかけて、タイやインドネシアで石油精製や石油化学の輸入代替事業が一時隆盛を極めた。日本企業も随分関与した事業がある。しかしながら、97年に発生したアジア経済危機によって、そのほとんどの事業がリストラ等を余儀なくされた。輸入代替事業の成否が専ら当該国の経済状況に依存する故に、当該国の経済状況に一旦異変があると事業そのものが重大な影響を受けるという証左である。

2)事業収入の通貨 – 2点目は事業収入が当該国のローカル通貨になるという点である。本件の場合で言えば、事業収入はベトナムの通貨ドン(Dong)になる。輸入代替事業というのはこれまで他国から輸入していたのを止め自国内で自ら生産して販売するものである。従って、生産した製品は専ら自国内で販売する。輸入代替事業が新興国で行われれば、同事業の製品は同国内での販売が主となる。ということは、事業収入は同新興国のローカル通貨になる。

 一方で資金調達となると、米国ドルでの借入を行うのが普通である。米国ドルで借入を行う理由は、資金調達がしやすい、資金にアクセスしやすいという点に尽きる。専門的に言えば、米国ドルの流動性が十分にあるからである。新興国の通貨は市場が成熟しておらず、多額で長期に亘る資金調達ができない。ここで留意しなければいけないのが、事業収入の通貨と借入金の通貨が一致するかどうかという点である。理論的には一致させることが望ましい。さもないと、借入期間を通じて借主(事業主体)が為替リスクを負ってしまう。為替リスクを負うとは、例えば新興国のローカル通貨が暴落した事態を想像すると分かり易い。新興国のローカル通貨が暴落したら、米国ドル建ての借入金の返済は難渋するであろう。これが為替リスクの恐ろしさである。しかしながら、新興国で行う輸入代替事業では通常事業収入の通貨と借入金の通貨を一致させることは非常に難しい。既述のように、事業収入の通貨は新興国のローカル通貨である一方、借入金の通貨は米国ドルとなってしまうのが普通だからである。本件ニソン石油精製プロジェクトもこの為替リスクの問題から免れていない。

 輸入代替事業の話しが長くなった。ニソン石油精製プロジェクトのファイナンス面の話しに戻る。世界の7つの輸出信用機関が合計50億米ドルのファイナンスを供与したわけであるが、注目すべき点は民間銀行による、保険・保証のない融資部分は無かったという点である。50億米ドルのうち、約23億米ドルは2つの輸出信用機関が直接融資(Direct Loan)をし、約27億米ドルは6つの輸出信用機関が保険・保証を供与しそれに基づいて民間銀行が融資を出している。民間銀行の融資は6つのいずれかの輸出信用機関の保険・保証を享受している。つまり、民間銀行は当該プロジェクトの事業リスクを取っていない。もっとも、厳密には保険・保証のカバー率は100%ではなく、95%あるいは97.5%というように制度上一部欠け目が存在するので、民間銀行はせいぜい5%程度の事業リスクを取っているにとどまり、大半のリスクは輸出信用機関が取っている。プロジェクトファイナンスではあるけれども、リスクを主に取ったのは輸出信用機関だということになる。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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