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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第1回

2017.06.30 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


【ベトナム・ニソン石油精製プロジェクト】[*1]

 日本の出光興産が主導するベトナムの「ニソン石油精製プロジェクト」を見てゆく。同プロジェクトは資金調達の一環として、2013年にプロジェクトファイナンスの融資契約書を調印した。融資金額は50億米ドル(約5,000億円[*2])。大規模な事業である。

[*1]本件については出光興産株式会社発表の2013.6.5付プレスリリースおよびProject Finance International – Issue(August 29,2013)を参照
[*2]以下本稿では便宜的に1米ドル=100円で換算する。

 ニソン石油精製プロジェクト向け融資には世界各国の7つの輸出信用機関が参加している。日本の国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、韓国輸出入銀行(KExim)、イタリア(Sace)、フランス(Coface)、イギリス(ECGD)、ドイツ(Hermes)のそれぞれの輸出信用機関である。国際協力銀行と韓国輸出入銀行の2行は合計約23億米ドルの直接融資(Direct Loan)を提供し、日本貿易保険、韓国輸出入銀行および4つの欧州輸出信用機関は合計約27億米ドルの保険・保証(Insurance/Guarantee)を提供している(韓国輸出入銀行は融資と保証の両方を供与している)。なお、後者の合計約27億米ドルの保険・保証に基づいて民間銀行計31行が融資を行っている。以上の説明を図示すると次の通りである。

(ニソン石油精製プロジェクトにおける融資関係者図)

 このニソン石油精製プロジェクトはベトナムにおいて日産20万バレルの石油精製所と石油化学プラントを建設・操業する事業である。ベトナムには既に一基石油精製所が操業しているが、ガソリン等の国内需要を賄いきれず現状シンガポール等から不足分を輸入している。本プロジェクトが推進する石油精製所は国内二基目となり、国内需要の伸長するガソリン等の輸入を代替してゆくものである。このように、これまで海外から輸入していたガソリン等を、国内で生産することによって国内需要を満たす事業を「輸入代替事業」という。

 輸入代替事業は経済成長の著しい新興国によく見られる事業形態である。日本の高度経済成長時代にも太平洋ベルトを中心に日本各地に重化学工業プラントが陸続と建設された。新興国の輸入代替事業によく見られる業種は、石油精製と石油化学である。従って、本件ニソン石油精製プロジェクトはベトナムにおける典型的な輸入代替事業と言って良い。輸入代替事業は輸入に代えて国内生産によって国内需要を満たしてゆくため、a)外貨流出を抑える効果、b)国内雇用を増やす効果、c)国内への技術移転の効果等が期待できる。これらの複数の効果が期待できることから、経済成長に伴って新興国では輸入代替事業の機会が増えてくるものである。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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