1.はじめに

 海外での事業にプロジェクトファイナンスが利用された例を見てゆくと、プロジェクトファイナンスを供与している金融機関は民間銀行のみならず、世界各国の政府系金融機関(輸出信用機関)が含まれているが多い。欧米先進国には政府が設立・運営している輸出信用機関が存在する。英語ではExport Credit Agencyと呼称され、実務の現場では短くECAと言う。日本の実務関係者も輸出信用機関と呼ぶよりも「イー・シー・エー」と呼ぶことの方が多い。欧米先進国のみならず、日本、韓国、中国など北アジアにも有力な輸出信用機関が存在する。各国の輸出信用機関の主要な役割は輸出金融(Export CreditもしくはExport Finance)の供与である。輸出金融とは自国で生産された機器やプラント等の輸出を支援するファイナンスを言う。通常は輸入国の機器購入者が借主となる。

 輸出金融を供与する輸出信用機関がどうしてプロジェクトファイナンス案件に関与するのであろうか。それは、プロジェクトファイナンスを利用するような大型案件では高額な機器やプラントなどを世界各国から調達・購入する必要があるからである。通常高額な機器やプラントを調達・購入するのは新興国の政府ないし国営企業であることも多いが、大型プロジェクトを推進する事業体が調達・購入することも珍しいことではない。大型プロジェクトを推進する事業体は借入金をプロジェクトファイナンスで行う場合がある。そうすると、各国の輸出信用機関はプロジェクトファイナンス仕立ての輸出金融を供与することになる。プロジェクトファイナンス仕立ての輸出金融とは、プロジェクトファイナンスでありかつ輸出金融でもあるという意味である。

 輸出金融は購入者に資金を手当てすることが普通なので、バイヤーズ・クレジット(Buyer`s Credit)とも呼ぶ。文字通り、購入者(バイヤー)に融資(クレジット)をつけるからである。日本の実務関係者はこれを短く「バイクレ」と呼ぶ。プロジェクトファイナンス仕立ての輸出金融は「プロファイ・バイクレ」と呼ぶ。「プロファイ・バイクレ」という呼称は、まさにプロジェクトファイナンスと輸出金融との合体・融合を意味している。そして、プロジェクトファイナンスと輸出信用機関との密接な関係を象徴的に表す言葉である。

 輸出信用機関はプロジェクファイナンス案件でどんな役割を果てしているのであろうか。少なくとも2つの大きな役割が見出せる。

1)ひとつは資金調達面における量的な補完である。大規模な案件になればなるほど多額の資金調達を要するため、民間銀行からだけでは十分な資金調達を成し得ない場合がある。仮に民間銀行だけで資金調達が不可能ではないとしても、多額の資金調達を民間銀行だけから行おうとするとファイナンス・コストが上昇してしまうことがある。ファイナンス・コストを抑えつつ、所期の資金調達を果たすために民間銀行に加え輸出信用機関もファイナンスに招聘するということが大型案件ではよく見られる。

2)もうひとつはリスクの観点である。カントリーリスク(ポリテイカルリスク)や一部の事業リスクについて、民間銀行は取らないことがある。これはリスク・リターンに基づく商業的な判断なのでやむを得ない。一方、輸出信用機関は政府が設立・運営しており自国の輸出振興や産業全般の振興を使命としているので、カントリーリスクをはじめとした諸リスクなど民間銀行が取れないリスクを政策的な判断で取るということがある。輸出信用機関は特に新興国のカントリーリスクに強く、民間銀行が忌避しがちな新興国のカントリーリスクを取る。海外プロジェクトファイナンスの市場は世界の民間銀行が主導しているが、資金調達の量的な補完やカントリーリスクなどのリスクの観点で各国の輸出信用機関が果たす役割は重要である。

 さて、本稿はプロジェクトファイナンスで一定の役割を果たす輸出信用機関について見てゆくものである。まず具体的な事例を通じて話を進めてゆきたい。プロジェクトファイナンスの案件において輸出信用機関が参加している具体的な事例を見た方が輸出信用機関の役割をイメージし易いと思うからである。

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