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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第8回 操業保険(プロジェクトカンパニーにおける実務上の留意点)

2019.05.02 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 前回のコラムでは、インフラ関連施設の建設期間中に付保する工事保険(Construction Insurance)について記載した。工事保険の内容に関する一般的な内容に加えて、保険事故発生時の求償手続きや、完工遅延に伴う工事保険延長の実務についても記載しているので、適宜参考にして頂きたい。今回は工事終了後の運営期間用に付保する操業保険(Operational Insurance)についてとりあげる。

操業保険とは

 操業保険は、文字通り施設の操業・運営(Operation)期間を保険対象期間とする保険である。工事期間中の保険に含まれていたErection (Construction) All Risks(EAR / CAR、建設オールリスク保険)、Marine Cargo(海上貨物保険)およびDelay in Start-Up(DSU、運営開始遅延保険)は、工事終了に伴い通常は不要になる。これに対しThird Party Liability(TPL、第三者責任保険、賠償責任保険)とTerrorism(テロリズム保険)は、操業期間中も必要になる。操業期間に特有な保険が、Property Damage / Property All Risks (財物損害保険、財物オールリスク保険、略称PD)とBusiness Interruption(利益保険、略称BI)である。

 工事保険と同様、各保険の概要は、プロジェクトファイナンスの解説書や主要な保険ブローカー(仲立人)のWebsiteにも記載されているので、ここでは詳細は省略するが、概要は以下の通りである。

  • Property Damage (PD)/ Property All Risks:財物損害保険。事業施設に対する物理的な損害をカバーする。
  • Business Interruption(BI):利益保険。財物損害保険でカバーされる物理的な損害が発生した結果、事業施設の操業が中断された場合の逸失利益をカバーする。

 なお一般的にはBIといえば、Business Intelligence(ビジネスインテリジェンス)のことを指すようなので、略語を使用する際には注意されたい。ちなみにビジネスインテリジェンスが誕生するよりはるか前に、日本で「BI」といえば、「ジャイアント馬場(B)・アントニオ猪木(I)」のことを指した時代があった(らしい。筆者も実体験していない)。

付保金額の設定

 工事保険と同様、プロジェクトファイナンスを利用した案件の場合、付保金額(Sum Insured)や免責金額(Deductibles)等について、最低限満たすべき要件がファイナンス契約上で規定されているため、これを満たす(ないしはレンダーからWaiverを取得する)必要がある。プロジェクトカンパニーとしては、保険ブローカーを通じて(再)保険会社にアプローチし、適宜レンダーの保険アドバイザー(Lenders Insurance Advisor、以下LIA)とも連携しながら付保条件を固めていく。

 財物損害保険の保険金額は、事業施設の再調達価格相当額とするのが一般的である。EPCコントラクターとLump Sum契約を締結している場合には、EPC契約に定めるLump Sumの価格に、操業保険開始までのインフレを加味するやり方がある。

 BI保険の保険金額は、事業施設の運営再開までに必要となる期間の損失をカバーする必要がある。シニアレンダーとしては、少なくともデットサービス(シニアローンの元利金や、ECA(Export Credit Agency)の保証を利用している場合には同保証料も含む)と、操業再開までの固定費のカバーを求める。一方でスポンサーとしては、デットサービス相当額に加えて、株主還元の原資となる部分も確保したいと考えるであろう。電力型の案件の場合は、いわゆるキャパシティ・チャージを基準に付保金額の設定をすれば、原則としてデットサービスと株主還元原資の両方を含むことになる。

操業保険の求償・更新・見直し

 不幸にも保険事故が発生してしまった場合には、求償することになる。損害金額の算定および保険金の支払いには、時間がかかることも珍しくない。また保険事故が発生し、保険金の支払いがあった場合には、翌年以降の保険料に、保険料値上げの圧力がかかることもある。

 一方で保険事故が発生していない場合、再保険の見直し(具体的には保険条件(付保金額等)や、(再)保険会社の変更)によって保険料を削減出来る可能性がある。また複数の施設を保有している場合、複数の施設を対象としたアンブレラ保険を活用することにより、保険料を下げられる可能性がある。

 以上、今回は操業保険について記載した。なお筆者は被保険者側での各種実務経験はあるものの、(再)保険会社サイドでの引き受け・保険料設定のプライシングの実務や、損害金額算定・保険料支払いの実務に関する直接の経験はないので、同経験をお持ちの方がインフラトの読者におられれば、一般論について情報・意見交換させて頂ければ幸甚である。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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