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【コラム】(プロファイバンカーの視座)第25回 PF組成しやすい事業(11)「電力型」(再生可能エネルギー)

2019.04.11 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


これまで「電力型」事業を見てきた。電力事業、水事業、石油・ガス分野の中の「電力型」事業、PPP事業などである。これまでにまだ採り上げていない「電力型」事業がある。そのひとつは再生可能エネルギーである。再生可能エネルギーとは通常自然のエネルギーを利用した発電を指す。化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を使った火力発電は燃料となる化石燃料の埋蔵量が有限であるが、再生可能エネルギーによる発電は自然のエネルギーを使うので、いわば燃料の制約はない(これは太陽光、風力、水力に当てはまるが、地熱やバイオマスには当てはまらない)。さらに再生可能エネルギーは温暖化の原因と目される二酸化炭素を排出しない。気候変動の問題が注視される中で、持続性のある次世代の発電と言われるゆえんである。再生可能エネルギーは具体的には太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電などである。

日本では2012年から固定価格買取制度(Feed-in tariffもしくは短くFIT)が導入された。これは再生可能エネルギーで発電された電力を電力会社が所定の価格で買い取る仕組みである。所定の価格の水準を相応高い水準で設定すれば、再生可能エネルギーによる発電設備の建設を促すことができる。日本の固定価格買取制度では当初太陽光で発電された電力をかなり高い価格で買い取ることとしたので、太陽光発電の一大ブームが起こった。

もっとも、太陽光発電は日照のある昼間しか発電しない。これに対して風力発電は風さえ吹けば24時間発電できる。さらに太陽光発電に使用するパネルの寿命は風力発電設備の寿命には及ばない。欧州が最も力を入れた再生可能エネルギーは風力発電である。現在再生可能エネルギーの推進に世界で最も熱心なのは欧州諸国であり、その中核には風力発電がある。

さて、火力発電も再生可能エネルギーによる発電も通常「電力型」事業である。いわゆる長期の電力売買契約が存在する。しかし、電力代金算出の方法には両者の間に大きな違いがある。それは通常火力発電では「発電容量」に対して電力代金が支払われるが、再生可能エネルギーによる発電では「実際の発電量」に対して電力代金が支払われる点である。この違いは独立電力事業主にとっても、プロジェクトファイナンスレンダーにとっても、非常に重要である。

火力発電では「発電容量」に対して電力代金が支払われる、という点をもう少し見ておきたい。そもそも電力は需要と供給を常に一致させないといけない。これを誤ると大規模な停電が発生したりする。従って、発電所の発電容量の総量は、常に想定される需要量を上回るものを確保している。しかし、個々の発電所による実際の発電量はまちまちである。そこで独立電力事業主に対して支払う電力代金の算出を火力発電では「実際の発電量」に基づくのではなく、「発電容量」に基づくことにしている。これは事業の収益性を確保させ独立電力事業主の参入を促すために必要な措置である。「発電容量」に対して電力代金が支払われるのであれば、電力収入の見通しは立てやすい。実際の発電量がどうなるかは心配しなくていい。事業主の収益見通しも立てやすいし、さらにプロジェクトファイナンスレンダーも融資がしやすい。これまで火力発電事業が各国で独立電力事業主によって大いに推進された鍵は、この「発電容量」に対して電力代金が支払われる仕組みにあったと言っても過言ではない。

ところが、再生可能エネルギーによる発電では「発電容量」に対して電力代金が支払われるのではない。「実際の発電量」に対して支払われるのである。再生可能エネルギーによる発電で「実際の発電量」はどのように決まるのか。これは単純である。太陽光発電なら日照時間や太陽光の強さであり、風力発電なら風量や風力である。つまり、太陽光発電や風力発電は天候次第ということになる。天候次第で電力収入が決まる。従って、太陽光発電や風力発電には「天候リスク」がある。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明 

*アイキャッチ Photo by Mariana Proença on Unsplash

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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