新元号が発表され、いよいよ平成の時代もあと1か月弱をもって終わりを迎える。筆者は現在海外に居住しているため、日常生活で日本の元号変更を意識する機会は少ないものの、先日引退会見を行ったメジャーリーガーのイチロー氏とは同世代であり、同氏の引退は平成という一時代の終わりを感じさせた。また最近では大相撲元横綱(双羽黒)で、廃業後はプロレスの世界に転身した北尾光司氏死去のニュースもあった。

 引退したイチロー氏が日本のプロ野球にデビューしたのが1992年(平成4年)。亡くなった北尾氏が当時のUWFインターナショナルに参戦し、高田延彦氏(「出てこいやー」のおじさん、と言った方が伝わりやすいかもしれない)と対戦したのも同じく1992年(平成4年)であった。スペインのバルセロナでオリンピックが開催され、アメリカの大統領にビル・クリントン氏(2016年の民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏の夫)が当選した年、と言えば、野球や相撲・プロレスに詳しくない方や、若い読者の方にもイメージがわくだろうか。

 ちなみに1992年(平成4年)当時の内閣総理大臣は故宮澤喜一氏(タレントの宮澤エマ氏の祖父)だった。年末の日経平均株価は約17,000円と、既に1989年(平成元年)のピークの半分を下回っていたものの、世界の時価総額ランキングのTop 20には、メガバンクに再編される前の都市銀行のうちの5行および旧興銀が名を連ねていた。年末のドル円相場は約125円/ドル、ユーロはまだ登場しておらず、Brent Crude Oilは約18ドル/バレル、金は約330ドル/トロイオンス。日本では上場インフラファンドどころか、JREITの登場(2001年)まで9年を要する、そんな時期であった。

 当時人気だった大人向けの漫画に、「沈黙の艦隊」という原子力潜水艦をモチーフにした作品があり(作者はかわぐちかいじ氏、モーニングに連載)、そこで登場する「やまと保険」というエピソードの中核をなすのが、英国ロンドンの「ライズ保険機構」であった。40代以上の読者であれば、連載中ないし単行本等で、漫画の原作を読んだことのある方もおられるかもしれない。

 90年代前半当時、筆者はまだ学生で、コーポレートファイナンスとストラクチャードファイナンスの区別もつかない、ましてやインフラ案件で利用する保険の実務など全く知らず、ロンドンにも行ったことがなかったが、「沈黙の艦隊」で描かれたロンドンの保険市場について学生なりに強い興味を持った。 その後社会人になって、レンダーやアドバイザーとしてストラクチャードファイナンス業務に関わるようになってから、「沈黙の艦隊」で描かれた「ライズ保険機構」が、実在する「ロイズ(Llyod’s)」をモデルに描かれたということを知った。筆者がロンドンの保険プレーヤーと仕事したのは、インフラ案件の建設保険よりも、航空機関連の保険や信用保険の方が先であったが、初めてロンドンでロイズの本部ビルを見た時には、「沈黙の艦隊」の「ライズ保険機構」を思い出し、感慨深いものがあった。

 なお「やまと保険」と「ライズ保険機構」のくだりは、第153話から第158話(原子力潜水艦の「航海」にあわせて、Voyage 153という表記がされる)で、単行本だと第15巻に収録されている。最近は昔の漫画の作品も、気軽にKindle等の電子書籍で購入出来るので、特に海外在住者にとっては便利である。昔の漫画の作品なので、「設定が荒唐無稽」といったご指摘はご勘弁頂きたい。(同じモーニングに連載されていた「島耕作」シリーズも、今のご時世なら、おそらくコンプライアンス違反に認定される事象も多いだろうし、「ああ播磨灘」のような横綱がいたら、それこそ北尾氏のように相撲協会によって廃業ということになるだろう)。

(左がロイズ本部ビル、中央がSwiss Reのロンドン本社ビル)

 話が横道にそれてしまったので、ロンドンの保険市場に戻ろう。今週のアイキャッチでも使用した上記写真の左側のビル(配管状のものが、むき出しになっている)がロンドンのシティにあるロイズ本部ビルである。何とも奇抜な、まるで工場のようなデザインであるが、調べたところ、階段や空調管などを建物の外に配置したデザインで、著名な建築家が設計を手掛けたらしい。残念ながら筆者はまだ中に入ったことはない。

 上記写真の中央にある円錐型のガラス張りのビルが、大手再保険会社Swiss Re(スイス再保険)のロンドン本社のビルである。先述のロイズ本部ビルから徒歩数分のところにある41階建ての高層ビルで、2004年の開業。その形状から、非公式には、「The Gherkin」(ピクルス用の小さいキュウリ)とも呼ばれるらしい。筆者がロンドン在勤であった2005年~2006年頃は、ロンドン市内ではひときわ目を引く高層建築であったが、その後、更に高いビルがいくつも竣工したので、今では(高さの観点からは)あまり目立たなくなってしまった。現在一番高いのはテムズ川を隔てて反対側にあるThe Shardというピラミッド型のビルになる(下記写真の左側)。

(写真左に The Shardが見える Photo by Robert Bye on Unsplash

 以上、今回は平成時代の終わりに際し、平成初期以降の、ロンドンにおける保険市場との筆者の個人的な思い出等について記載した。次回はインフラ案件の建設保険および操業保険に関する被保険者側の実務について記載する予定である。基本的には保険事故が発生しないのが被保険者(プロジェクトカンパニー)、保険会社双方にとって望ましいものの、現実の世界では、「付保して終わり」ではなく、保険事故が発生してしまった場合の求償(Claim)の実務等がポイントになる。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
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桶本賢一

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