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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第5回 株主間協定書(2)経営陣の任命、利害衝突、準拠法等

2019.03.21 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


前回に引き続き、主に株主の視点から、株主間協定書に関する実務上の留意点について、記載する。

1.  経営陣の任命

株主としてプロジェクトカンパニーの(取締役に加えて)経営陣の任命権を有する場合、

  • 自社が任命する経営陣(業務執行)に、取締役を兼務(Executive Director)させるやり方と
  • 取締役は日常の業務執行には関与しない非常勤取締役(Non-Executive Director)とし、業務執行にあたる経営陣には取締役を兼務させないやり方

がある。

株主としては、取締役と業務執行を兼務させることによって、株主の意向をプロジェクトカンパニーの事業運営に速やかに反映させることを期待する。買収案件の場合は、経営の継続性を重視して、既存の経営陣を引き続き任命するケースもあるだろう。

少数株主と多数株主の間で意見が異なるケースでは、少数株主から選任された常勤取締役は、少数株主としての立場と、多数株主の意見に基づくプロジェクトカンパニーの業務執行としての立場が相反し、板挟み状態になる場合がある。

2. 株主間で利害の衝突がある場合の決議

インフラプロジェクトにおいては、特定の株主が、プロジェクトのEPCコントラクターやO&Mコントラクター(完成後の施設の保守点検運転を担う)を兼ねていたり、その主要株主になっていたりするケースがある。この場合、プロジェクトカンパニーとEPCコントラクターやO&Mコントラクター(あるいはその主要株主)の間で、明らかなConflict of Interest(利益相反、利害の衝突)がある。

あまり想定したくないケースではあるが、例えば完工遅延が発生してしまったケースを想定してみよう。プロジェクトカンパニーとしては、EPC契約に基づきEPCコントラクターに対して遅延損害金を請求することになる。仮にある株主が、EPCコントラクターを兼ねている(あるいはEPCコントラクターの主要株主である)場合、その株主は遅延損害金の支払いを回避したいインセンティブがあるため、遅延損害金請求に関するプロジェクトカンパニーの決議に加わるべきではない。

こうした利害の衝突がある時の意思決定の問題を回避するために、「EPCコントラクターやO&Mコントラクターを兼ねている、あるいはそれらの主要株主となっているプロジェクトカンパニーの株主は、EPC契約やO&M契約に関するプロジェクトカンパニーの決議にはVoting Right(議決権、投票権)を持たない」という規定をおく。

3. 先買権

特定の株主がキャピタル・コール(プロジェクトカンパニーからの増資・株主ローン実行要請)に応じることが出来ない場合に、他の既存株主が優先的に増資・株主ローンを引き受ける権利(Pre-emption Rights、先買権)を持つという規定を置くことがある。この場合増資・株主ローン実行に応じることのできなかった株主の持ち分は希薄化(Dilution)する。

4. 株主還元

株主還元(Distribution)は、株主(劣後)ローンの金利支払い、同元本返済、配当(Dividend)の形態をとるのが一般的である。プロジェクトファイナンスを利用している場合には、株主還元実施のための各種要件を満たす(ないしはレンダーに要件達成を猶予してもらう)必要がある。

5. 準拠法および係争の解決手続き

これもあまり想定したくない事態ではあるが、株主間の利害が対立し、係争になってしまった場合の解決手段も規定しておく必要がある。準拠法(英国法が多い)および係争の場合の解決手段(仲裁裁判所の場所の指定等)を規定する。ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration、LCIA)が有名だが、プロジェクト所在国がアジアで株主もアジアの場合は、ロンドンではなく、香港またはシンガポールの国際仲裁センター(Hong Kong / Singapore International Arbitration Centre、HKIAC/SIAC)にする場合もある。筆者は経験したことがないが、株主が本邦企業だけの場合は、日本商事仲裁協会(JCAA)にするケースもあるのかもしれない。

但し仲裁には時間もコストもかかるので、契約書上では仲裁に関する規定をおくものの、実際に仲裁にまで行くケースは稀である。 以上、主に株主の視点から、株主間協定書に関する実務上の留意点について、記載した。なお株主間協定書は、第3回コラムで記載した通り、ファイナンス・クローズ達成のための貸出先行要件(CP)の一つとなるので、各項目はレンダー目線でのチェックの対象となる点にも留意されたい。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

【バックナンバー】
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第4回 株主間協定書(1)株主決議と取締役の任命
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第3回 プロジェクトカンパニーの設立と運営(2)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第2回 プロジェクトカンパニーの設立と運営(1)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第1回 キャッシュ・フロー・モデル(実践と座学の組み合わせによる実務能力向上)

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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