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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第4回 株主間協定書(1)株主決議と取締役の任命

2019.03.07 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


前回のコラムでは、複数のスポンサーが参画・出資するインフラ案件を念頭に、プロジェクトカンパニーの株主間協定書の必要性について言及した。株主間協定書において規定する項目の例については、プロジェクトファイナンス業界関係者にとって定本の一つである「プロジェクトファイナンスの理論と実務」 にも記載されているので(第一版では第4章、第二版では第3章)、興味のある方は適宜そちらも参照してみて頂きたい。本稿では実務上の留意点について、特に株主の視点から、より詳細な考察を行ってみたい。

1. 株主総会と株主決議

プロジェクト所在国において株式会社形態のプロジェクトカンパニーを設立する場合、所在国の会社法(英語圏であればCorporate law、Companies Act)に則って会社が設立・運営される。会社の最高意思決定機関は株主総会(General Meeting)であり、経営の意思決定機関として取締役会(Board)が設置されるのは、通常の株式会社と何ら変わらない。株主間協定書では、株主総会で決議されるべき内容と、株主総会での決議を経ずに取締役会で決議出来る事項を規定する。所有=株主総会、経営(監督)=取締役会、業務執行=経営陣(Management)プラス従業員、となる。

株主総会は(会社所在国の)会社法上、年次株主総会(Annual General Meeting、AGM)の開催が求められるのが一般的であり、AGM以外の株主総会を臨時/緊急株主総会(Emergency / Extraordinary General Meeting、EGM)と呼ぶ。AGM以外のタイミングで株主決議(Shareholders Resolution)が必要になった場合、実務ではEGMの開催に替わって、書面での決議を行うケースの方が多いだろう。

株主決議は、過半数の賛成によって決議出来る普通決議(Ordinary / Majority Resolution)事項、2/3や75%以上等の賛成が必要になる特別決議(Special / Super Majority Resolution)事項、全株主の賛成が必要になる(Unanimous Resolution)事項にわかれる。第二位(以下)の株主として出資する場合には、特別決議事項における拒否権の確保が重要となる。例えば出資比率が25%であるにも関わらず、特別決議事項の要件が2/3以上である場合、特別決議事項に反対するには1/3の出資比率が必要となるため、拒否権を行使出来ないことになってしまう。第二位(以下)の株主として参画する際には、拒否権を行使出来るよう、株主間協定書における特別決議の定数規定を交渉することが肝要である。

逆に過半数を出資する主要株主の立場からすると、第二位(以下)の株主に対して拒否権を与えてしまうと、過半数を所有していながらも、特別決議事項については自社の思う通りの決議・運営が出来ないことになってしまう。このため出資比率および特別決議事項の定数の規定は、過半を出資して筆頭株主になる場合も、第二位以下の株主として出資する場合も、非常に重要である。なお5~10%等のマイノリティ出資を企図している場合には、上記のポイントは該当しない。

2. 取締役の任命

株主間協定書では、株主の出資比率等に応じて取締役の任命権を規定する。特定の株主に対して、取締役会議長(Chair)の任命権を付与する場合もある(日産の取締役会議長の任命権に関する各種報道(現在進行形)は、インフラトの読者諸氏にとっても記憶に新しいのではないだろうか)。

株主数が多く、どの株主も過半数の持ち分を所有しない場合、出資比率に応じて各株主に取締役の任命権を付与していくと、結果的に取締役の総人数が多くなってしまう可能性がある。取締役の適正な人数について論じるのは本稿の手に余るものの、一般論としては、取締役の総人数が多すぎると、取締役会の運営が非効率になってしまう可能性が高まると言える。1990年代前半までは、一部の本邦大企業では取締役の人数が30人~40人以上といった例も散見されたようである。これは極端な例としても、SPC/SPVとしての性質も踏まえれば、プロジェクトカンパニーの取締役の総人数は10名程度以内が望ましい、と筆者は考えている。

取締役の任命権に加えて、特定の株主に対して、CEOやCFO等のプロジェクトカンパニーの経営陣の任命権を付与することがある。継続的に任命権を付与するケースもあれば、特定のポジションについて、年限を区切って任命権を付与するケースもある(例:当初XX年は株主Aが、次のYY年は株主BがCXOを指名等)。

業務執行として任命した経営陣に取締役を兼務させるかどうか、というのが次の論点となるが、この点については次回第5回目のコラムで記載する。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

【バックナンバー】
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第3回 プロジェクトカンパニーの設立と運営(2)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第2回 プロジェクトカンパニーの設立と運営(1)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第1回 キャッシュ・フロー・モデル(実践と座学の組み合わせによる実務能力向上)

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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