【コラム】(プロファイバンカーの視座)第21回 PF組成しやすい事業(7)「電力型」(石油・ガス分野)

2019.02.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


石油・ガス分野の「電力型」事業の具体例の話を続ける。今回はパイプラインとFSRUを見てゆく。

(3) パイプライン

まずパイプライン。パイプラインは大型で長距離のものとなると、石油のパイプラインと天然ガスのパイプラインが主流である。日本は島国で平地が限られているためか、石油やガスのパイプライン網はあまり充実していない。発電所、石油製油所、石油化学工場、その他重工業の工場などはほとんど沿岸に建設し、外国から輸入した石油やガスを容易に利用することができる。米国や欧州には石油・ガスのパイプライン網が充実している。米国は国内で石油・ガスの生産が盛んで、それらを消費地へ運搬する必要がある。欧州はロシアからパイプラインを通じて大量の天然ガスを輸入している。従って、これまで石油・ガスのパイプライン新設事業の多くは米国や欧州で見られた。その際に資金調達手段としてプロジェクトファイナンスが組成されることも少なくなかった。

パイプラインの事業がどうして「電力型」事業になるのか。それはスループット契約(Throughput Agreement)というパイプライン独特の利用契約の存在に理由がある。このスループット契約では、ちょうど発電事業における買電契約のように、パイプラインを使用してもしなくても利用料金を支払う仕組みがある。この仕組みのために、パイプライン事業者は安定的に事業収入を確保することができる。このスループット契約の期間も通常10年や20年といった長期間に及ぶ。そのため、長期のスループット契約が存在するパイプライン事業にはプロジェクトファイナンスが組成しやすい。

(4) FSRU

次にFSRU。FSRUはFloating Storage and Regasification Unitの略である。日本語でも英語でもエフ・エス・アール・ユーと呼ぶことが多い。日本語では浮体式LNG受入・再ガス化設備とも訳されている。FSRUはLNG受入基地である。まだ歴史は浅い。商業化が本格化し始めたのは2010年前後である(注1)。そして世界で現在稼働しているFSRUは30基程度である(注2)。これまでLNG受入基地は陸上に建造するのが普通だった。日本はLNG輸入大国なので国内に多くのLNG受入基地が存在するが、いずれも陸上に建造した受入基地である。

FSRUの外観は船のように見える。それもそのはずで、FSRUは中古のLNG船を改造して建造されることもある。いま東南アジアの諸国でエネルギー需要の増加に伴いLNG輸入が急伸しているが、LNGの輸入にはLNG受入基地が必要である。そこでこのFSRUが利用され始めている。FSRUは陸上のLNG受入基地に比べて建設費が安く、建造は造船所で行うので建設期間も短縮できる。さらにFSRUは海上に浮かんでいるので移動させることも容易である。耐用年数が残っていれば別な場所で利用を継続することも可能である。次世代のLNG受入基地は間違いなくFSRUである。

さて、FSRUの事業はなぜ「電力型」なのか。それはLNG船やFPSOの事業と同様に、長期の傭船契約(Charter Agreement)が締結されることが多いからである。この場合の傭船契約の期間も最低でも10年と長期になることが多い。こういった長期の傭船契約が締結されることによって、FSRUの傭船料収入は見通しが立てやすくなり、プロジェクトファイナンスが組成しやすくなる。(この稿続く)

注1、注2)出典:The LNG industry GIIGNL ANNUAL REPORT 2018

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明 

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