【コラム】(プロファイバンカーの視座)第20回 PF組成しやすい事業(6)「電力型」(石油・ガス分野)

2019.01.24 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


石油・ガス分野の「電力型」事業の具体例の話を続ける。

(2) FPSO

今回はFPSOである。FPSOはFloating Production and Storage Offloading systemの略である。日本語でも英語でもエフ・ピー・エス・オーと呼ぶことが多い。また日本語では浮体式石油生産・貯蔵・搬出設備とも訳されている。FPSOはいわば洋上の石油生産設備である。外観は船のように見える。通常動力は付いていない。従って、移動するためには他の船に曳航してもらう。建造コストを抑えるために中古の石油タンカーを改造して建造することもある。

世界の石油生産は現在半分近くが陸上ではなく洋上で行われている。海底油田での石油採掘は陸上での石油採掘に比べて自然条件が大きく異なる。採掘・生産設備の設置は浅瀬であればあまり問題はないが、水深が深くなればなるほど困難を極める。技術的には設備の設置が可能だとしても、高コストになれば採算が取れない。そこで開発されたのがFPSOである。FPSOは船のように洋上に浮かんでいる。「浮体式」(Floating)というのは洋上に浮かんでいるという意味である。船のように洋上に浮かんで、そこから海底にある油田にアクセスする。この方法だと水深の深度はあまり問題にならない。かなり深いところでも石油の採掘・生産が可能である。1970年代にはFPSOの技術が確立されたと言われている。

FPSOはいまや海底油田の採掘には欠かせない設備になった。現在世界で約170基のFPSOが稼働しているという(三井海洋開発HP)。このFPSOがどうして「電力型」の事業になるのか。それは海底油田の所有者がFPSOの傭船契約(Charter Agreement)を長期で締結するからである。海底油田の所有者は石油生産のためにFPSOを必要とする。自分でFPSOを所有することもあるが、FPSOの建造費は大型化により近年上昇しており(大型のものでは建造費が1,500億円を超えるものもある)、自ら所有するより傭船契約でFPSOのサービスを利用することが多い。FPSOの傭船契約の契約期間は短いものでも10年。長いものでは20年に及ぶ。傭船料(Charter Payment)はLNG船の場合と同様に傭船契約で予め合意している。長期傭船契約を持つFPSO事業は長期に亘り傭船料収入の安定した事業である。従って、プロジェクトファイナンスが組成しやすい。実際にこれまで多くのプロジェクトファイナンスが組成されてきた。

さて、LNG船のときにも、このFPSOのときにも、傭船契約という名の契約が出てきた。一部の読者の中にはリース契約とどこが違うのかと思った方もおられるのではないだろうか。あるいは傭船契約に代わってリース契約では駄目なのかとお思いになった方もおられるかもしれない。さらに航空機ファイナンスの世界ではリース契約が主流なので、LNG船やFPSOの世界ではなぜリース契約ではなく傭船契約なのかとお思いになった方もおられよう。

傭船契約とリース契約の決定的な違いは誰がオペレーション(日々の運航)を行うのかという点である。LNG船やFPSOの傭船契約ではLNG船やFPSOの所有者がオペレーションも行う。客先(傭船者 – LNG船やFPSOのサービスを受ける者)はLNG船やFPSOの所有もしないし、オペレーションもしない。いわば運転手付きのクルマを長期賃借しているようなかたちである。従って、傭船料の中にはオペレーションの代金も含まれている。一方、リース契約の場合にはオペレーションは客先自らが行う。リース契約では機器や設備だけを賃借しているのである。航空会社が航空機をリースしているのは、オペレーション(運航)は自ら行うからである。航空業界は航空機の所有とオペレーション(運航)が分離しているとも言える。

ちなみに、船舶のリース契約が存在しないわけではない。船舶にもリース契約は存在する。業界ではリース契約と呼ぶよりもBareboat Charter Agreement(裸傭船契約)と呼ぶことが多い。自らオペレーション(運航)できる者はこのBareboat Charter Agreementで問題ない。もっとも、LNG船やFPSOは特殊な船舶なので、オペレーションも含めた通常の傭船契約となることが多い。さらに、LNG船やFPSOを客先自らが所有して、オペレーション(運航)だけを外部に委託することもある。この場合にはO&M契約(Operation & Maintenance Agreement)を締結する。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ 写真提供:三井海洋開発株式会社

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